【試乗スケッチ】やはり「Mに始まりMに終わる」 刺激的なBMW・M2コンペティション
「やっぱりツーリングカーはMに始まりMに終わるのかもしれない」-。柄にもなく、そんな車哲学的な思いを巡らせてしまったのは、BMW・M2コンペティションの刺激の渦に巻き込まれたからだ。(レーシングドライバー/自動車評論家 木下隆之)
座った瞬間に始まる「M2の世界」
ブランパンGTアジアにBMW・M4GT4で参戦し、BMWの速さと強さを実感していることと無縁ではないだろうが、いつからもどこからでも刺激が襲ってくるMに触れたらもう、その隙のない力強さに平伏すしかない。
優れた剣豪がそうであるように、鍔と鍔を絡めて競り合った最後、引くことも打ち込むことも許してはくれなさそうな緊張感がある。コクピットに腰をすえて、極端に太いステアリングに手を添えた瞬間にすでに、M2の世界に引きずりこまれる。隙がないのだ。
車両を借りた御殿場から、事務所のある横浜までの約1時間ほどの道中で、M2コンペティションが意識から薄れた瞬間は一度もなかった。常に存在が迫ってくるのだ。
M2コンペティションは、その名から容易に想像するように、M2の強化版である。ベースのM2がそもそも武闘派の急先鋒なのに、M2コンペティションになって刺激度をさらに高めたというのだから驚きだ。
搭載するエンジンは、3リッターの直列6気筒DOHCツインターボ。最高出力410ps、最大トルクは550Nmを絞り出す。シングルターボだったM2とは異なり、ツインターボ化されたのが最大の特徴だ。
M2コンペティションの登場によって、標準のM2はラインアップから消えた。
優しさも秘めたMT
いやはや、こいつを転がすには、それなりの覚悟が必要だ。心を整えてから挑まないと、ヘロヘロになるまで疲弊する。試乗車はレアな6速MTだったこともあり、ドライビングはまさにマシンとの戦いの様相を呈している。M2コンペティションは、クルマというより「マシン」と呼ぶのが相応しい。
とはいうものの、荒さだけが取り柄の激辛マシンではない。ターボチャージャーの数が増えたことで、手を焼くような破裂的な特性ではなくなった。全域がパワーゾーンに整ったのだ。回転フィールも高品質になった。エンジン剛性が高まったかのような、抜けるような吹け上がりが加わったのも事実。
クラッチペダルは軽い。市街地走行での度重なる発進と停止でも疲労が蓄積することはない。エンジンはアイドリング付近から粘り強いから、エンストの心配もない。そんな優しさも秘めているのだ。
だが、ひとたびアクセルペダルを踏み込むと、極低回転域からトルクが溢れ出す。さあ走れと急かされるというわけ。
回転系の針が2500rpm付近に差し掛かるやいなや、M2コンペティションは本気モードに突入する。太いリアタイヤにたっぷりと荷重が加わる感覚があり、路面を激しく蹴散らすのである。
ツーリングカーと呼ぶ気になれず
前後重量配分は、直列6気筒ツインターボを搭載するためにややフロントヘビーの52対48である。硬く締め上げられた足が強引にフロントノーズを抑え込む。
M2コンペティションをツーリングカーと呼ぶ気にはなれない。たまたま登録ナンバーを取得してしまっただけのレーシングカーだと解釈しなければ、これほどまでに刺激に満ち溢れていることの説明がつかないのだ。
それでも冒頭のように、ツーリングカーはMに始まりMに終わるのかもしれないと感じるのだから、これはもう魔力としか言いようがない。
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【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
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【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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