【奈良発 輝く】ATOUN 荷物積み降ろし「パワードウェア」で体力差克服

 
足腰に装着する「パワードスーツ」の試作品について話し合うATOUNの社員=奈良市(撮影藤木祥平)

 荷物の積み降ろしが欠かせない物流や建設の現場で、腰の負担を大幅に軽減する「パワードウェア」の需要が高まっている。パナソニックの子会社で、ロボットベンチャー「ATOUN」(アトウン、奈良市)の藤本弘道社長(48)は「想像できることは創造できる」をモットーに、「着るロボット」の実現にこぎ着けた。

 創業当時の社名はアクティブリンク。2017年、阿吽(あうん)の呼吸で動く「着るロボット」を提供しようと、ATOUN(阿と吽)に変更した。目指しているのは、性別や年齢による体力差を問わない「パワーバリアレス社会」の実現だ。

 最新のパワードウェア「ATOUN MODEL Y」は、15年に生産した旧モデルから軽量化を図り、コストも抑えた。昨年7月の販売開始から半年足らずで約200台を出荷。同10月に開かれた第8回ロボット大賞では優秀賞(サービス分野)を受賞した。

 海外展開にも力を入れる。米ラスベガスで今年1月に開かれた家電見本市「CES 2019」でも好評を得たといい、手応えは上々だ。年明けからはアジアに販路を広げ、シンガポール、台湾、香港、韓国で販売を開始している。

実用向け社内起業

 「高齢化が進み、今後は労働力の確保が必要になる」。01年、当時パナソニックのモータ技術研究所に所属していた藤本社長は、着るロボットの将来的な需要を見込み、社内のベンチャー制度に応募。資金面のバックアップを得て、提案から2年後、アクティブリンクを創業した。

 起業の目的を「パワードウェアの社会実装」と言い切る藤本社長。研究自体は当時から進んでいたが、「最先端技術が求められているわけではない。社会は技術が生み出す機能を求めていると思う」と民間の立場だからこそ、ローコストで実用的な商品の開発を目指した。「最先端の技術とローテクを組み合わせれば、新しいイノベーションが起こせる」と力を込める。

 パナソニック発のベンチャーゆえ、商品化に際してのこだわりは強い。その一つが人の動作に追従するセンサーだ。直感的な動きを追究するため、腰の回転角度をセンサーが感知して、自動的にモーターを回転させる仕組みを導入。スイッチを入れると、後は「阿吽の呼吸」でロボットが動作を手助けしてくれるというわけだ。

被災地や農業でも

 既に出荷されたパワードウェアの大半は物流現場で活用されているが、将来的に見込まれるのが他分野への普及。その一つが農業だ。

 収穫の際は中腰での作業を余儀なくされることが多く、さらに農家の高齢化の問題もある。また、昨年は大阪北部地震や西日本豪雨、北海道胆振東部地震など度重なる災害に見舞われただけに、災害の現場でも重宝されそうだ。

 藤本社長は「普段は物流や建設の現場で使ってもらい、有事の際には被災地で使用してもらう。そんな仕組みをつくれないか」と青写真を描く。自治体との関係構築に向け、既に意見交換の場を設けているという。

 ラインアップの拡充にも余念がない。目下、腰以外に腕や脚に装着する新製品も開発中だ。「要素となる技術は既にあるが、安全性やコスト面、耐久性とクリアしなければいけない課題がある。新しい分野なので、もっと高いレベルで考え、着実に進んでいきたい」と今後を見据えた。(藤木祥平)

【会社概要】ATOUN

 ▽本社=奈良市左京6-5-2(0742・71・1878)

 ▽設立=2003年6月

 ▽資本金=4億7200万円

 ▽従業員=25人

 ▽事業内容=「パワードウェア」、アシスト機器の開発と製造、販売

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 □藤本弘道社長

 ■「着るロボット」 SF世界を具現化

 --ロボット開発をしようと思ったのは

 「中学生の頃から、SFと歴史が好きだったことが今に影響していると思う。経営は歴史から学び、テクノロジーはSFから着想を得ている。初めからロボットを開発したいと考えていたのではなく、ベースにあったのはSFの世界を具現化したいという思い。高齢社会の到来を考えたとき、何か人の役に立てるのではと思ったのが創業のきっかけだった」

 --どんな作品に影響を受けたのか

 「一番影響を受けたのは(米テレビドラマの)『スタートレック』で、最も古いシリーズから見ている。現代のスマートフォンのようなもので体をスキャンしたり、当時としては斬新なものが提唱されていた。アイザック・アシモフやアーサー・C・クラークらの古典的SF小説も読みあさっていた。商品には直接影響していないが、『どんなアイデアも否定しない』という姿勢や自由度に影響していると思う」

 --奈良県に拠点を置いている理由は

 「創業からしばらくは京都府精華町に本拠を置いていて、2012年に奈良に移った。奈良は1300年前に中国や朝鮮の文化を取り入れ、日本の文化として再定義したクリエーティブ発祥の地でもある。今、この地で最先端のことをやるというコントラストが面白いと思う。イノベーションを起こすという意味で、奈良という土地が最も適している」

 --新たな商品を生み出す上で、大事にしていることは

 「『想像できることは創造できる』と常に考えているので、人の想像を否定しないようにしている。スタートレックというドラマの世界でも、当時は実現されていなかったものが現代ではたくさんある。まずは思い描くことから始める。それは創業当時から変わらない思いだ」

【プロフィル】藤本弘道

 ふじもと・ひろみち 大阪大院修了。パナソニックに入社し、モータ技術研究所に勤務。2003年に同社のベンチャー制度で独立。「パワードウェア」と名づけた“着るロボット”の開発、商品化に成功した。48歳。奈良県出身。

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 ≪イチ押し!≫

■「MODEL Y」 物流現場で

 昨年7月に出荷を始めた「ATOUN MODEL Y」はリュックサックのように背負い、腰、肩、脚をベルトで固定して使うパワードウェア。主に物流の現場で用いられ、腰を回す際の負担を約10キロ軽減してくれる優れものだ。

 カーボン樹脂でできたフレームを採用しており、重さは約4.5キロ。旧モデルの「ATOUN MODEL A」よりも約40%軽量になった。体を持ち上げる手助けをする「アシストモード」、歩く際にモーターがオフになる「歩行モード」、ゆっくりと体を下ろせるようサポートする「ブレーキモード」の3つの作業モードがあり、着用者の動きをセンサーが感知して自動で切り替わる。

 価格は代理店などによって変動するが、約70万円。リース期間は3~5年で、4年リースでは月額約2万円。