【5時から作家塾】ますます拡大するスマートスピーカー市場、世界の動向とは

 
1月に米ラスベガスで開催されたCES 2019において、グーグルアシスタント対応製品を集合させたグーグル

 人工知能(AI)を搭載したスマートスピーカーの市場は、この1年で大きく様変わりした。前回スマートスピーカーについて書いた時に取り上げた2017年6月のデータでは、アメリカ市場ではアマゾンが82%と、圧倒的なシェアを占めていた。世界市場においても、2017年4~6月期のアマゾンのシェアは75.8%とほぼ一強だったのである。

 しかし、調査会社スタティスタの最新データによれば、2018年7~9月期にはアマゾンのシェアは31.6%まで縮小、2位グーグルが22.7%と迫り、次いで中国勢のアリババ(9.5%)、バイドゥ(百度、8.4%)、シャオミ(小米科技、8.4%)、その後にアップル(4.8%)が続いている。アマゾンのシェアが下がったのは、単に同社のスマートスピーカー「エコー」シリーズの売上の伸びが鈍化したのではなく、新規参入が相次ぎ、市場そのものが拡大したためだろう。

 なかでも注目すべきなのが中国市場だ。先の調査データからもわかるように、上位5社のうち3社は中国企業である。当初はアマゾンのAIである「アレクサ」も、グーグルのAIである「グーグルホーム」も英語にしか対応していなかったため、スマートスピーカー市場は英語圏に限定されていた。しかし中国企業が中国語対応のAI開発に乗り出し、独自の製品を販売し始めたことから、中国のスマートスピーカー市場が急速に立ち上がりつつある。

 中国「スマートスピーカー三国志」

 調査会社カナリスの調べでは、2018年7~9月期の中国におけるスマートスピーカー出荷台数は計580万台で、先の3社が大きなシェアを握る。

 首位はネット通販サイトを運営するアリババだ。2017年に発売した「ティーモールジェニー」は中国限定商品で、2018年7~9月期に220万台売れた。同時期に190万台を出荷、アリババに次ぐシェアを持つシャオミは、スマートスピーカーを複数モデル提供している。3位のバイドゥが2018年6月に発売した「シャオドゥ」は、89元(約1400円)と破格の安さで売り出されため、発売開始からわずか90秒間で100万台を売り切ったという。

 アマゾンやグーグルに遅れを取ったアップルは、スマートスピーカー「ホームポッド」を、2018年2月にアメリカ、イギリス、オーストラリアで発売したのち、ドイツ、フランス、カナダ、スペイン、メキシコと徐々に販売国を広げ、今年1月からは中国と香港での販売に乗り出した。アジアにおいて日本ではなく中国を優先したのは、グーグルは中国国内でサービスを規制されているため参入できないこと、またアマゾンの「アレクサ」は中国語に対応していないこと無関係ではないだろう。

 日本も乱立状態に

 日本においては、グーグルが2017年10月から「グーグルホーム」を、アマゾンも同年11月から「エコー」を販売、両社ともに着々と製品を追加してラインアップを拡充している。またLINEも昨年より「クローバ」を販売開始した。

 そのほかにも昨年はフェイスブックが「ポータル」「ポータル+」を、ファーウェイが「ファーウェイAIキューブ」を発売するなど、まさにスマートスピーカーが乱立する状態となっている。

 当面は「2つの市場」か

 しかし当面の流れとしては、中国と、アメリカおよびその他という、大きな2つの市場に分かれつつあり、中国はアリババ、バイドゥ、シャオミが、その他市場はアマゾンとグーグルが先導することになりそうだ。ただしハードウェア、つまりスマートスピーカーだけでなく、搭載しているAIにも注目する必要がある。

 アマゾンとグーグルは、それぞれのAIであるアレクサとグーグルホームを、スマートスピーカーだけでなく、家中のありとあらゆる家電(調理家電や洗濯機なども含む)、トイレや風呂、セキュリティ、車、そしてグーグルはスマートフォンでも使えるようにし、巨大なエコシステムを作り上げようとしている。アマゾンの場合はネット通販を利用しやすくして売り上げを増やす、グーグルはユーザーデータを収集しより効果的な広告を打つなど、さらなる狙いがあるのは確かだ。

 同じことが中国の3社にもいえる。アリババは「アリジニー」、シャオミは「シャオエーアイ」、バイドゥは「デュエルOS」と、それぞれが独自開発したAIをスマートスピーカーに搭載している。3社とも単にスピーカーを売るのではなく、アリババはネット通販拡大、シャオミはスマートフォンを含むネットワークの構築、中国のグーグルと称されるバイドゥはデータ収集など、背後にはもっと大きな野望があるのは間違いない。

 とはいえ、スマートスピーカー市場はまだ揺籃期(ようらんき)にある。また1年後には大きく変化しているかも知れない。(岡真由美/5時から作家塾(R)

 《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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