【講師のホンネ】大人だからこそ 「ブレない心」の育て方

 

 先日、セミナーで話す内容が決まらず焦っていた。テーマは「ブレない心の育て方」。精神科医として、3児の母として、話すべきことは沢山あるはずなのに、肝心のブレない心の正体が分からない。(精神科医・伊豆はるか)

 というのも、私自身が揺れる心と戦っていたからだ。長男が嘔吐(おうと)下痢を発症。回復した途端に長女も同様の症状に。年末で重要な仕事がたてこむ中、保育園、小児科、病児保育と右往左往。楽しみにしていたMISIAのコンサートの前日、最後の頼みだった夫から体調不良の連絡が来たとき、心が折れそうになった。

 しかし、諦めずに行ったコンサートで霧が晴れた。MISIAはデビュー20周年。誰もまねできない彼女だけの世界に観客は魅了された。彼女自身も音楽を、そして自分自身を心の底から楽しんでいた。そんなMISIAの世界に浸りながら、ブレない心の正体はこれだ! と確信した。

 精神科医として断言する。誰しも心のブレは避けられない。人間は社会で生き残るため、自分の価値を他に認めさせようとする。それが適切な自己愛であり、孤独や承認欲求から逃れられないのは当然のことだ。常に心が安定している必要はない。

 ただし、感情の影響で人生を踏み外す人もいれば、踏みとどまる人もいる。その違いが、自分の世界を持っているかどうかなのだ。

 心が乱れたとき、自分の道、人としてのあり方にブレない軸を持っている人は、元の場所に戻り心を整えることができる。私自身もそうだ。子育てに悩み自身を失いそうな時、人前で話をしたり、患者さんの安心した顔を見ると、自然と気持ちが切り替わる。講師、そして医師としての私の軸が、揺れ動く心を力強く引き戻す。

 幼い頃は誰しも、自分の世界を持っていたはずだ。わが家の子たちは時を忘れて遊び、いつも何かに夢中。いとも簡単に泣いたり怒ったりするが、すぐに仲良く大笑いしている。今のところ、ブレない心を持っているようだ。

 一方、大人はどうだろう。迷っても落ち込んでも、即座に戻れる自分の世界を持っているだろうか。誰かに認められるためでも、お金を稼ぐためでもなく、自分が自分らしくいるための場所。悩みを忘れるほど没頭できるもの。それさえ見つけられたら、もうブレる心なんて恐れる必要はなくなるだろう。

【プロフィル】伊豆はるか

 いず・はるか 兵庫県出身。精神科医・3児の母。慶応大在学中に会社を設立し、塾や飲食店を経営。結婚出産と仕事の両立のため、社長業の傍ら医学部入学。33歳で医師免許を取得。現在は精神科医・訪問診療医として働きながら、女性の新しい生き方を提案する「マルチライフプロジェクト」を主宰。現実的かつ具体的手法で女性を導く講座は毎回満席。