【日本の未来を考える】カード情報利用どこまで 学習院大教授・伊藤元重

 
伊藤元重・学習院大学教授(野村成次撮影)

 キャッシュレス決済を進めていくことが政策課題となっている。キャッシュを使わないことで、小売業などへのコスト負担が軽減される。スマートフォンやカード、指紋などの生体認証を利用して支払いをすますことが近未来の姿であるだろう。

 ただ、キャッシュレスにも問題がないわけではない。中国で幅広く活用されているアリペイでは、利用者の情報が事業者に吸収される。政府にもそうした情報が吸収されるともいわれる。具体的な実態は分からないが、個人の情報を吸い上げることが、サービスを提供する企業にとっても、国民を管理したい国家にとっても都合がよい。真偽のほどは定かではないが、アリペイの利用者は、過去の購買行動などによって、ランク付けがされているといわれている。単純化していえば、その人の評価は70点というような指標をつくることが可能だ。評価の高い人ほど優遇される。中国からの旅行者のビザの認可にこの評価点数を利用する国もある、というようなことを情報問題の専門家から聞いたこともある。

 利用実態から自分たちの情報が吸収されたり、勝手に評価されるというのはあまり気持ちのよいものではない。ただ、私たちが日常的に利用しているクレジットカードでも、基本は同じだ。カード会社や金融機関がその気になれば顧客の情報を収集して分析することができる。米国の大手小売業者が自社カードの利用者の購買行動を分析することで、どこの家に赤ん坊が生まれるのかをかなり正確に予測したという。妊娠した女性は香りの弱いせっけんやサプリメントなどで独特な買い物行動をするそうだ。そうした消費の癖を分析することで、どこで出産が起こるのかということを予想できる。こうした情報分析をプロファイリングという。

 プロファイリングが行われていることを、私たちはある程度納得した上で、クレジットカードを利用している。それどころか、たくさん購入しているということをカード会社に認識してもらうことで、ポイントなどを稼ごうという人も多い。だから情報が吸収されることが一概に悪いということでもない。情報利用にどこまで歯止めがかかるのか、そして利用者がどの程度納得するのか、ということにもよるのだ。利用者の情報の収集・分析・利用にどのようなルールを設定するのかということが大きな問題となる。

 ところで、キャッシュレス決済とはいっても、プリペイド型であるスイカのような鉄道系の電子マネーは、ユーザーが匿名性を確保できる現金に近い存在だ。日本でこれだけ現金が利用されることの理由の一つは、多くの人が匿名性を求めていることだろう。その意味でプリペイド型の電子マネーは優れている。ただ、匿名性が高いので、巨額の利用が可能になると、マネーロンダリングなど犯罪に利用されかねない。だからこそ、現在では限定した額しか利用できない仕組みとなっている。匿名性は魅力的ではあるが、犯罪ということを考えると課題も多い。(いとう もとしげ)