【試乗スケッチ】聴かせるディーゼルサウンド ベンツを一台所有するなら迷わずS400d

 
メルセデスS400d

 最高級セダンとティーゼルエンジンの組み合わせに違和感を覚える人がいたら、そろそろ考えを改めたほうがいいのかもしれない。徹底的な快適性が不可欠なショーファードリブンであっても、いまのディーゼルエンジンは振動も音も上質なレベルに達しているのだから安心していい。(レーシングドライバー/自動車評論家 木下隆之)

 いきなり結論めいたことから書き始めてしまったが、ディーゼルエンジンを搭載する「メルセデスS400d」が日本初上陸したのは昨年の暮れだったが、印象が強かったこともあり、いまあらためてキーボードを叩いている次第だ。

 S400dは、直列6気筒3リッターディーゼルターボを搭載する。最高出力は340psだが、最大トルクは驚異的な700Nmに達する。さすがに低回転域トルクにメリットがあるディーゼルに、やはり同様に低速トルク増幅装置ともいえるターボが組み合わされるとこれほどまでの数値に到達するのだ。

 その数値がまやかしではないことは、走り始めた瞬間に意識させられる。冒頭で紹介したように、ディーゼルから想像する古い概念は、もう捨て去ったほうがいいとさえ思う。振動は滑らかであり、サウンドも心地いい。アイドリングさせたまま窓を開ければ、カラカラとしたディーゼル特有の音が耳に響く。だが、不思議なことにそれが不快ではないことを知るのだ。「聴かせるディーゼルサウンド」と言っていい。

 それで思い出すのは、数年前にデビューして僕をあっと驚かせた、「S300h」である。搭載していたのは、やはりSクラスとはイメージが大きく隔たる直列4気筒であり、排気量はわずか2リッター、しかもディーゼル。ハイブリッドが加勢するとはいえ、非力で荒々しいという印象を突きつける組み合わせだったにもかかわらず、「これもありかな」と思わせるに十分なフィーリングだったのだ。

 燃費は驚異的で、九州から東京までを無給油で走破してみせたほど優れていたばかりか、動力性能にも不満はなかった。いつの間にかラインナップから姿を消していたものの、メルセデスの先進性と技術力をまざまざと見せつけたモデルとして僕の記憶に深く刻まれている。S400dはあの衝撃と似ているのだ。

 しかも、S300hで唯一寂しく感じた直列4気筒の悲哀、つまり振動やサウンドがいまひとつ心地よくなかった部分を、今回の直列6気筒が補っている。上質にさらに磨きをかけたのだ。

 走行フィールも同様に味わい深い。電子制御「AIRマチックサスペンション」は、なめし革を敷いた路面を滑っているかのような、しっとりと湿度感をともなった走り方をする。エアサスにありがちな、路面の小さな突起を吸収しきれない悪癖は感じないし、かといってフワフワと車酔いしそうな浮遊感もない。手垢のついた表現なのはお許し願いたいが、まさに路面に吸いついたかのような感覚なのである。

 高速道路を往復してみても、かっしりとた堅牢なボディに守られていながら、足回りだけがしなやかに上下動しているかのような印象に終始する。圧倒的にラグジュアリーでありながら、骨格が強固なあたりが、メルセデスSクラスらしい。

 いまの僕がメルセデスの中で一台を所有するとしたら、迷わずS400dを指名する。財布さえ許してもらえるのなら、いまからメルセデス販売店に電話したいほどだ。

 【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。

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【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター

東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。