間伐材などをバイオプラ原料に 清水建設が「リグノフェノール」研究施設を建設
清水建設は、木材から抽出する「リグノフェノール」と呼ばれるバイオプラスチックの原料研究を加速する。バイオプラスチック原料はトウモロコシやサトウキビなど、食糧資源が一般的ななかで、リグノフェノールは食べることのできない木材や、間伐材など利用方法があまりない材質からでも抽出できる。さらに熱にも強い特性があり、さまざまな用途が期待されている。
21年にも商用プラント着工
清水建設は、島根県隠岐の島町で、藤井基礎設計事務所(松江市)などと共同で、リグノフェノールを抽出・製造する研究施設の建設に着手した。今年7月にも研究施設が完成し、年間1トン程度を生産する。経済的な製造技術を確立したうえで、2021年にも商用プラントの建設に着手する計画だ。
藤井基礎設計事務所は、いち早くリグノフェノールの有用性に着目し、既に基礎的な製造技術を開発している。同社から共同研究の申し入れを受けた清水建設では、事業化の可能性について検討を始めたが、十分な市場性があると判断し、本格的な研究施設建設という次のステージに進んだ。
リグノフェノールの素となるのはリグニン。これまでも長らく、再生可能資源として研究されていたが、いまだにほとんど活用されていないのが実情だ。
植物の細胞壁は、多糖類高分子のセルロース、ヘミセルロースと芳香族高分子であるリグニンの三大要素で構成されている。特に木材の場合は、この三大要素が全体の9割を占めており、なかで2割から3割がリグニンで、豊富に存在している。
セルロース、ヘミセルロースは製紙原料として利用され、その過程でリグニンも副産物として抽出される。しかし、リグニンは紙を黄ばませてしまうことから、製紙工程では排除される。この段階で取り出されたリグニンは、低分子化しているため、使い道は少なく、コンクリート用の混和材として実用化された以外は燃料として活用される。
これに対し、リグノフェノールは、化学反応を利用して木材から直接リグニンを素材として活用可能な形で、なおかつ高分子に近い状態で抽出したものだ。他の樹脂と混ざりやすい特性を持つ天然の樹脂材料であり、バイオプラスチック原料としてさまざまな用途への応用が考えられる。
害少なく難燃性高い
清水建設などがまず実用化に近いと想定しているのが、各種化成品の重要原料であるフェノールの代替だ。フェノール樹脂、接着剤、塗料などの原料をフェノールから、リグノフェノールに切り替えることでバイオプラスチック化できる。フェノールは有害性がある中で、そのリスクを減少させることにもつながる。塗料として、木材の表面に使った場合には漆のような独特の光沢になるメリットもある。
次に、難燃性を生かした展開だ。ポリカーボネート、ポリプロピレン、ナイロンなどの汎用(はんよう)樹脂に、リグノフェノールを高機能性添加剤として混ぜることで、難燃性樹脂になる。自動車の内装材、家電などの樹脂にはこれまでデカブロモジフェニルエーテルなどが使われていた。だが、これらの臭素系難燃剤には有害性が指摘され、使用が禁止されているものもある。こうしたなか、リグノフェノールに切り替えれば、難燃化だけでなく、安全性、環境性能も高まる。また、木材に含侵させれば、燃えにくい木材にすることなども確認できているという。
このほか、リグニンは自然界では細胞同士をつなぎ止める接着剤の役割を持つことから、樹脂の強度を引き上げる特性や難燃性もあるため、清水建設では自動車のエンジン回りの部材の可能性も視野に入れている。(平尾孝)
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