【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】「決済アプリ」使ってますか?〈前編〉 熾烈な主導権争奪戦を知る

 
第2弾キャンペーンなどについて、記者会見するPayPay(ペイペイ)の中山一郎社長=4日午後、東京都千代田区(鴨川一也撮影)

 【フィンテック群雄割拠~潮流を読む】スマホの決済アプリを使ったキャッシュレス決済は、今、一番熱いトピックだと言っても過言ではないかもしれません。なぜなら決済アプリには、高いポテンシャルが秘められているからです。

 どんな可能性かというと、次のようなものです。

 キャッシュレス化が進むと、決済コストが相対的に低下します。すると、お金の流れひいては経済活動そのものがより“滑らか”になることが期待できます。また、お金のやりとりそのものを扱う決済は、あらゆる経済活動のインフラだとさえ言えます。となると、生産者・消費者・決済事業者が各々で何らかの形で付加価値を受けられるようになるはずなのです。また、国境をまたいだ経済活動(越境経済、越境EC)が円滑に行えたり、消費者行動のデータ活用によりユーザー一人一人に最適化したビジネスが行えたりもする。こうしたことを実現するのが決済アプリサービスだとすると、そのポテンシャルに引き寄せられて、様々なプレイヤーが登場して熾烈な主導権争いが起こっているのも当然なわけです。

 2種類のキャッシュレス決済の方式? 

 巷では、「キャッシュレス」という言葉がひとり歩きしていますが、キャッシュレス決済がわかりにくくなってしまっているのは、そのプレイヤーの数の多さからだけではなく、そこに2種類の決済方式があるからではないでしょうか。

 まず、決済アプリについて説明しますと、大きくは「非接触型決済(非接触IC決済)」と「QRコード決済」の2種類があるということを覚えておいてください。

 日本でまず浸透したのは前者、非接触型決済の方です。楽天Edy、Suica、PASMO、nanaco、WAONなどの交通系ICや電子マネー、そしておサイフケータイも、非接触型決済サービスツールです。

 そして、今、熱く盛り上がっているのが、QRコード決済によるサービスになります。こちらは、スマホのカメラで販売者のQRコードをスキャンするか、その反対にスマホ画面に表示される QRコードを販売者側に読み取ってもらうというのが一般的な使われ方の仕組みです。それぞれのアプリには事前にクレジットカード情報や銀行口座情報がヒモ付けられているか、チャージされた電子マネー情報がヒモづけられていて、決済が行われるようになっています。

 こちらのプレイヤーには、PayPay(PayPay社)、LINE Pay(LINE社)、楽天ペイ(楽天社)、d払い(NTTドコモ社)、Origami Pay(Origami社)などが名前を連ねていますが、名前も資本もある前述のプレイヤー以外にも、Kyash(Kyash社)などのスタートアップ企業も顔をのぞかせています。QRコード決済市場は、来たるべきキャッシュレス社会に向けて、まさに戦国時代を迎えていると言っても良いのかもしれません。

 さて、ここまでが基本情報となるわけですが、その裏側ではどんなことが繰り広げられているのか? そのことを僕の想像混じりに掘り下げて考えてみることにしましょう。

 どこが覇権を取るか?

 数ある決済アプリサービスがそれぞれ一気呵成に勝負をかけている理由は、一度スタンダードとなるポジションを獲得し、広く認知されてしまえば、あとは生き残った数社で総取りに近い形で決済ビジネスを推し進められるからでしょう。まさに英語表現にある”Winner takes all.”です。

 ここで、あくまでも個人的な意見として順当に強いだろうと思えるところを3つ挙げてみるならば、それはやはり大企業ならではの資金力と営業力、既存ユーザーを持ったPayPay、LINE Pay、楽天ペイが強いのではないかと思います。さてこの中でも、多くの人に衝撃を与えたのがPayPayが2018年末に行った「100億円あげちゃうキャンペーン」だったのではないでしょうか。決済額の20%が全員にキャッシュバックされるという前代未聞のキャンペーンだったわけですから、飛びつかないはずがありません(ただし最大キャッシュバック額は一人5万円まで)。PayPayが、今回のキャンペーンで獲得したユーザーの数は、2018年12月時点で581万人にもなったと言われています(ネット行動分析サービスのヴァリューズ調べ)。

 それでは、「3強」の特色などをみていきましょう。

 「孫正義」という存在の大きさ、怖さ

 PayPayは、ソフトバンクとヤフーの合弁によって設立された電子決済サービス事業を展開する会社です。つまり裏側には、日本から生まれ、今や世界を代表する事業家の孫正義さん(ソフトバンクグループ会長兼社長)の存在があるわけです。こうなると、圧倒的な強さは見せかけだけのものではなく、ただならぬ想い、執念を持って取り組まれているプロジェクトだということが浮かび上がってきます。

 かつて、「Yahoo! BB」というブロードバンドサービスを広げようとした孫さん率いるソフトバンクは、顧客獲得をするために街中でADSLモデムを無料で配布して、ビジネス的な大成功を収めました。またYahoo!オークションという有名サービスにおいて、アメリカに本拠を置くオークションサイトeBayとの熾烈な競争も有名です。元ソフトバンク社長室長で孫さんの右腕と言われた人物・三木雄信氏の発言によれば、「eBayが撤退するまでヤフオクの出品を無料にしろ!」と言い続けていたそうです(ソフトバンクグループのサイト「ビジネス+IT」より引用)。

 こんなことをやり切ってしまうのが、「孫正義」という人物の凄さなのでしょう。100億円を約2週間という短期間で燃やしつくし、さらに矢継ぎ早に第2弾の100億円還元キャンペーンを実施している孫さん率いる決済サービスのPayPayの戦い方は、圧倒的営業力や資金力のない会社では、到底、太刀打ちができないのではないでしょうか。「PayPayこそが新しい決済インフラのスタンダードになるんだ!」という「気迫」というか「怖さ」さえ感じられます。

 楽天ペイ、LINE Payの強み

 そして僕が個人的見解で挙げた3強のうちの2つ目は楽天ペイです。ここは、ご存知の通り、楽天市場で得た会員ですでに巨大な経済圏を築いている。楽天の会員数は、約9870万人(2018年6月時点)という驚くべき数字ですから、この時点で圧倒的なアドバンテージを誇っているわけです。

 同じくLINE Payも、圧倒的なユーザー数を誇るコミュニケーションツールLINEをベースにした決済サービスです。日本最大のSNSであるLINEは、月間アクティブユーザー数が、なんと7800万人(2018年10月時点)にも登ります。決済事業における競争優位性も圧倒的に高いわけです。LINEマンガ、LINEデリマ、LINEほけん、そして私が率いるFOLIOとタッグを組んだLINEスマート投資など、LINE上から様々な商品やサービスを購入することがどんどん拡大している現状、LINE Payで決済することはごく自然なことになっていくと思います。

 次回も決済アプリの話を続けます。

【プロフィール】甲斐真一郎(かい・しんいちろう)

「FOLIO」代表取締役CEO

京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。

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