【東京商工リサーチ特別レポート】突然シャッター閉めた名物書店 なぜ私的整理は頓挫したのか

 
常連客からのメッセージで埋め尽くされた天牛堺書店天下茶屋店のシャッター=2月5日午後、大阪市西成区

 大阪府内で高い知名度を誇った天牛堺書店が破産を申請した。活字離れや電子書籍の登場で出版不況が直撃。地域文化の拠点の一つではある書店もビジネスとして生き残り策を求められる時代に入った。(東京商工リサーチ特別レポート)

ピーク時は学習塾も経営

 大阪府堺市を中心に12カ所の書店を展開していた天牛堺書店(大阪府堺市南区、藤吉信彦社長)が1月28日、大阪地裁堺支部に破産を申請した。負債総額は17億4144万円だった。

 大阪府内では高い知名度を誇っただけに、SNSでは「驚いた」、「ショック!!」などのつぶやきが相次いだ。倒産しても店舗シャッターには閉店を惜しむ声や感謝のメッセージが綴られた紙が多数貼られている。愛された書店の倒産に地元では様々な反応がみられた。

 天牛堺書店は、1963年12月に藤吉信夫氏が創業し、1968年7月に法人化した。書籍・雑誌などの新刊書のほか、古書販売にも力を注いでいた。特に、古書は高価買い取りで売れ筋商品を取りそろえ、販売実績を伸ばしていた。順調に事業拡大をたどり、南海電鉄沿線の駅構内や駅前などに次々に出店、立地の良さもあって通勤通学のサラリーマンや学生などを中心に、来客数を伸ばした。

 ピーク時は25店の出店に加え、学習塾も2教室経営し、1999年5月期の売上高は約29億900万円を計上した。だが、若者の活字離れやインターネットの普及、電子書籍の登場などで、出版不況と呼ばれる厳しい状況に直面。書籍販売を中心にしていた経営が一気に苦境に陥った。

トーハンが支援に乗り出したものの…

 業績回復に向け、音楽用コンパクトディスク(CD)やトレーディングカードなどの書籍以外の商品も扱うようになった。だが、想定通りの成果は上がらず、次第に不採算店舗が増加。そこにのしかかるように1998年2月に購入した本社不動産への投資も重荷になっていった。

 不採算店は順次閉鎖したが、収支とキャッシュフローは好転せず、2016年中旬になると最大の仕入先である書籍取次大手トーハン(東京都新宿区)への支払いに支障をきたすようになった。

 トーハンには所有権留保が付いた在庫商品の返品で対応した。また、商品の継続供給を目的に2018年5月期に入るとトーハンから役員を受け入れ、新体制で改革を目指した。

 不採算店の閉鎖を進めた結果、12店舗まで縮小し、経費の大幅削減に一定の成果をみせた。だが、採算を確保できていた店舗は「天下茶屋店」と「粉浜店」のみ。規模縮小だけでは深刻な経営の改善には結びつかなかった。

金融機関にリスケ要請

 2017年8月、金融機関に借入金の返済条件の変更(リスケ)の交渉に入り、同年9月の返済分から元金返済を停止した。

 2018年8月には再生支援協議会に私的整理を相談していた。支援には全取引金融機関の同意を条件とされたため、バンクミーティングを開催するなど、同意の取り付けに奔走した。

 こうして一部の金融機関からはプロパーと保証協会分をあわせた融資については、2019年4月1日まで元本返済の猶予に応じる回答を得ることができた。だが、他の金融機関からは提示した私的整理案に賛同を得ることができなかった。

 金融機関が私的整理案に難色を示したのは、決算処理への根強い不信が背景にあった。

(1)2014年5月期から2017年5月期にかけて受けた役員借入金の債務免除(合計約2億6200万円)を売上に計上していた。

(2)2015年5月期に店舗の耐震工事に係る売上補償(約1200万円)を売上に計上していた。また、同期は店舗の耐震工事負担金(約2000万円)を地代家賃と相殺処理していた。

(3)2016年5月期に退職年金収益(約1100万円)を売上に計上していた。また、同期の書籍等の仕入を過少申告(約8000万円)していた。

(4)当社代表者が別途経営する企業へ貸付などの金融支援を行っていた。

後継者問題抱えて廃業する店舗も

 2018年5月期は、売上高が16億8062万円、営業損失が2億6511万円、経常損失が2億8808万円、純損失が5億1741万円と厳しい決算になっていた。同期末で2億4256万円の債務超過に転落したが、その後の財務デューディリジェンスで債務超過額は6億1637万円に達していたことがわかった。

 業績改善も見込めず、金融機関から新規の資金調達もできないまま、1月17日に一部の金融機関が預金差押を実行。ついに事業継続を断念し、破産を申請した。

 書店経営は苦境に陥って久しい。大阪では、「紀伊国屋書店」、「MARUZEN&ジュンク堂書店」、「蔦屋書店」など、梅田を中心に大型店舗が多数出店している。だが、これらは関西以外の資本だ。

 東京商工リサーチ関西支社の調べでは、大阪府に本社を置く主要書店22社のうち、17社が減収、5社が直近決算で赤字であることがわかった。倒産という最悪の事態でなくても、後継者問題も抱えて廃業する店舗は少なくない。

 出版不況でも本を好きな人は多い。だが、多様化する書籍の下では、市場縮小に歯止めをかけるのは困難だ。書店は地域文化の拠点の一つではあるが、それだけで生き残れない。書店もビジネスとして生き残り策を求められる時代に入ったことを自覚すべきだろう。

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