【近ごろ都に流行るもの】国民的フルーツ・イチゴ 発電所で通年栽培、ハンバーガーにも
旬の季節が到来し、ホテルではイチゴフェアが花盛りだ。火力発電所内にオープンしたイチゴ園では初の出盛り期を迎え、多くの客が舌鼓を打つ。レストランではスイーツだけでなくハンバーガーなどの料理にも使われ、驚きの味を引き出している。思い起こせば1年前の平昌(ピョンチャン)冬季五輪。カーリング日本女子の「もぐもぐタイム」で注目された韓国産イチゴが、実は日本から“流出”した品種を基に交配されたものが主だと農林水産相が発言、話題となり、農業の知的財産権の大切さに気付いた人も多いはず。「国民的果実」ともいえる“赤い宝石”を、今こそ!(重松明子)
JR鶴見駅から路線バスで15分。「横浜火力発電所前」で降りると、寒空に2つの巨大な排気筒がそびえていた。お目当ての「東京ストロベリーパーク」(横浜市)は、その足下にある。
オール電化のハウスの中は温かく、イチゴの香りに満たされている。2916平方メートルの広さがあり、「章姫(あきひめ)」「よつぼし」など4品種を栽培。緑の葉に赤い実が点々と映え、白い花の中でハチが黒い体を埋めている。「自然受粉のために働いてもらっています。おとなしい性質なので、刺激しなければ大丈夫」と、同発電所副所長の武藤元さん(48)。
完熟の粒を口に含むと、みずみずしさが弾ける。ビタミンCがたっぷり取れそうな新鮮な甘酸っぱさ。都会の中の自然の恵みがうれしい。
料金は、30分食べ放題で1~6月は2000円、7~12月は2980円(中学生以上)。ピンク色の床はバリアフリーだ。3歳の娘と都内から来園した男性(46)は、「やっと予約が取れたので、今日は会社を休みました。きれいに管理され、子供がドロドロに服を汚すこともなく楽しめた」とにっこり。
イチゴ狩りは連日予約で満員だ。スイーツや物販コーナー、ビュッフェレストランも含めた同パークは開業9カ月で5万人を集客している。
かつてここには東京電力のPR施設があったが、東日本大震災の原発事故の余波で閉館。その後、国民が最も好きなフルーツとの調査結果もあるイチゴをテーマに、消費者との交流の場として昨年のゴールデンウイークに開業再出発した。武藤さんは「空調の自動制御などの発電技術を生かして通年栽培に挑戦しています」と話した。
技術指導は、東日本大震災被災地の宮城県亘理(わたり)郡のイチゴ農家があたっている。同地区のイチゴは収穫量が被災前の7、8割にまで回復した復興のシンボルだ。指導する男性は「夏場の温度や日照の調整が課題です」。ハウスの日中温度は23~25度。夜間は真夏でも10度近くまで下げ、寒暖差で実の締まりと甘味を作りだす。これらを使ったパフェやスムージーも、パークの人気商品に育っている。
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ハンバーガーの主役は真っ赤なイチゴ!?。西新宿のホテル「ハイアットリージェンシー東京」で3月末まで開催中のストロベリーフェアの目玉商品は、「いちごとアボカド入りテリヤキバーガー」だ。ガブッといくと、牛肉のうまみにイチゴのトロッとした甘さがジューシーになじむ。意外といっては失礼だが、素直においしい。
「われながら良い出来。イチゴをオーブンで低温加熱することで、食感や酸味がまろやかになり、香りが華やかに立つ。アボカドやチーズのコクも、イチゴの邪魔をしていないでしょう」。洋食料理長の大谷勇さん(57)が胸を張った。
昨秋から試作を重ね、イチゴと相性の良い食材を試行錯誤。バンズのピンク色はイチゴのリキュールを練り込んだ。使用するイチゴは「とちおとめ」。「大きさがほどよく、甘すぎず酸味とのバランスがいい。供給も安定している。料理には難しいと思われているイチゴの可能性を広げてみたい」と意欲的だ。
イチゴ料理の開発から3シーズン目を迎えた今年は、ピッツァも商品化した。軽く焼かれた薄切りイチゴのフルーティーな味と香りが、生ハムやチーズの塩気と調和し、白ワインにぴったりの一品。黒コショウやハチミツで、飽きずに食べられる。
若い女性客がインスタグラムで発信してくれたり、噂を聞きつけた地方の生産者が食べに来てくれたりするという。「イチゴはみんなの大好物。今後もひらめいて、納得できる料理ができたら商品化していきたい」(大谷さん)。あくなき探求心から思わぬごちそうが生まれそうだ。
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海外で品種登録されていなかった日本産農産物が海外に持ち出され、無断で栽培されるケースは、韓国のイチゴのほかに中国でのシャインマスカットなども確認されており、日本政府は生産者の海外での品種登録出願を支援している。
優れた農産物が正当な方法で輸出されるなら大歓迎だ。せっかくおいしい日本のイチゴ。“後味”もよろしくいきたいものである。
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