【マネジメント新時代】EV用ワイヤレス給電、いよいよ本格化か
電気自動車(EV)用のワイヤレス給電は、長年2社間で、国際規格標準化をめぐり激しい争いを続けてきた。しかし、この2月、米ベンチャー企業、ワイトリシティが、米半導体大手クアルコムのEV向けワイヤレス給電事業「クアルコム・ハロ」を買収することで決着した。これによって、EV向けワイヤレス給電の実現が本格化すると思われる。ワイヤレス給電は約10年前から提案されてきたアイデアであるが、なぜ10年もの長きにわたり標準化争いが続いてきたのであろうか。筆者も過去にワイヤレス給電に携わった経験があり、考えを述べてみたい。(日本電動化研究所 代表取締役・和田憲一郎)
国際規格標準化の実現へ
筆者がワイヤレス給電に関心を持ったのは10年以上前になる。自動車メーカーで電気自動車開発に携わっていた頃、充電方式は普通充電と急速充電の2方式であった。いずれもケーブルを車両に接続しなければならず、雨天時や女性にとって不便であり、何か良い方法はないものかと考えていた。マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトした技術者が「磁界共鳴」という新技術でワイトリシティを立ち上げたのが、2007年のことだ。
彼らは企業立ち上げ後に、筆者にもコンタクトしてきた。最初に話を聞いたとき、眉唾モノではないかと思った。というのは、ケーブルがなく、上下に電気を飛ばすことがどうしても信じられなかったからである。当時は50~100ワットレベルの小電力であったが、試作品を見せてもらうにつれ、ひょっとしたらモノになるかもしれないと思った。それ以降、次第に伝送能力が高まり、11年頃になると、1キロワットレベルまで伝送可能となった。
その後スムーズに行くかと思われたが、なかなか進展が見られなかった。いくつかの要因があるが、三菱自動車の「アイミーブ」、日産自動車の「リーフ」後にEV普及が足踏み状態となり、EV用ワイヤレス給電に弾みがつかなかったことがその一つだ。また13年になると、クアルコムは、ニュージーランド大学研究者が開発した「ハロIPT」を買収し、これまで機器は開発しないと明言していたにもかかわらず、自社開発に着手した。
その結果、ワイトリシティとクアルコムの2陣営が、ワイヤレス給電の国際規格化をめぐって激しい争いを続けることになる。両陣営とも、自動車メーカー、部品メーカーなども巻き込み、国際規格化は混沌(こんとん)としてしまった。しかし、近年、クアルコムはこれから始まる5Gに経営資源をつぎ込むため、ドメインとはいえないEV用ワイヤレス給電から撤退するとの判断に傾いたようだ。
普及地域や課題は
今回の買収劇で、ワイトリシティはクアルコムの持つ技術やライセンス権、1500件に及ぶパテントも全て譲り受けるとのこと。これでEV用ワイヤレス給電の規格争いにも終止符が打たれた。
では、どこから普及するのであろうか。筆者は、新エネ車の進展が著しい中国から普及すると見ている。18年の中国自動車販売台数は2808万台と、前年比2.8%減で28年ぶりの変調となった。しかし、新エネ車は17年の78万台から62%増の126万台まで急伸している。
また、第14次5カ年計画(21~25年)にワイヤレス給電目標も盛り込まれるのではないかと推察する。中国では、中国の推奨国家標準規格である「GB/T」に登録された段階で一気に普及拡大する。
国際規格標準化が決着することで大きな前進をみるが、課題もある。とくに大きな課題は、車両とグランド側の送電装置との相互互換性(インターオペラビリティ)ではなかろうか。どのような車両が来ても、送電装置と問題なくワイヤレス給電を行うことが必須となる。
急速充電の世界では日本発の急速充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」の普及を目指すチャデモ協議会が中心となり、運用の互換性を担保する認証制度を設けている。急速充電器メーカーは、同協議会が指定する認証機関で認証試験を実施。その後、同協議会は認証機関からの書面の内容を審査し、当該製品に証書を発行している。
このように、多くの機器が存在すると、相互互換性をどう保つかが重要となってくる。現時点はこれを担う機関や方法も不明なため、今後の重要なテーマとなるのではないだろうか。
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【プロフィル】和田憲一郎
わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。62歳。福井県出身。
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