駅の売店が無人に! クリーニングやタクシーも…切り札なるか「AI活用」
外国人労働者の受け入れを目的とした改正出入国管理法が昨年12月に成立するなど深刻な人手不足が問題となるなか、職場で人工知能(AI)を活用しようという動きが強まっている。駅ではAI無人決済システムを取り入れた売店の実証実験や無人タクシーの走行実験が行われ、AIを活用した服の自動識別システムを導入したクリーニング店なども登場した。生産性の向上に向けた「切り札」となるか。(松崎翼)
100台のカメラで
JR赤羽駅(東京都北区)の5、6番ホームに設置された無人店舗。飲料水や菓子、パンなど140種類の商品が並ぶ店内では、商品棚や天井などに設置された約100台のカメラが客の動きを捉え、客が手に取る商品を自動的に認識する。
迷った末に商品を棚に戻すことも判別。客が選んだ商品をカバンに入れるなどした後、改札のような機械に「Suica」(スイカ)などの電子マネーをかざして精算を済ませると、レシートが出てきてゲートが開く仕組みだ。
AIを活用したこの「スーパーワンダーレジ」は、昨年10月17日から導入され、12月14日まで実証実験が行われた。開発に携わったコンサルティング会社「サインポスト」の波川敏也さん(37)は「大きなトラブルもなく、(客の)反応も上々だった」と手応えを語る。
こうした実験に踏み切る背景には、駅の売店を取り巻く厳しい環境がある。コンビニエンスストアとの競合もあり、売店の売り上げは減少し、採算性が厳しくなっている。さらに深刻な人手不足も加わり、売店営業が維持できなくなっており、人件費などを省けるAIに活路を見いだそうとしている。
波川さんは「人手不足への対応のほか、地方でも採算が取れ、活性化にも一役買える」と訴える。
クリーニング店でも
こうしたAIを活用した動きは、他分野でも広がりを見せている。
福岡県内でクリーニング店を展開するエルアンドエー(同県田川市)の田原大輔副社長(39)は、カウンターの上に置いた服の種類を瞬時に自動識別するシステムを開発した。
平成27年に無償公開されたグーグルの機械学習プログラム「TensorFlow」(テンソルフロー)を活用。服の分類の精度を高めるためには大量の服の写真データをAIに学習させる必要があるが、これまで6万枚のデータを収集、約30種類の服を自動で分類することが可能となった。
AI導入に踏み切った背景には、人口減少や家庭用洗濯機の性能向上などによるクリーニング業界の市場規模の縮小、過疎化が著しい地元を盛り上げたいという思いがあるという。
「識別の精度といった課題を克服し、高齢者や主婦の方にも満足してもらえるような無人店舗を目指したい」と力を込めた。
このほか東京都内では、タクシー大手の日の丸交通などが昨年8、9月、AIなどを活用した自動運転タクシーの実証実験を実施。タクシーが自動運転で公道を営業走行するのは世界初で、32年をめどに無人の完全自動運転での商用化を目指している。
メリット大きく
人口減少に伴う人手不足への対応は、業界を問わず喫緊の課題だ。
国立社会保障・人口問題研究所によると、経済活動の中核を担う生産年齢人口(15~64歳)は、29年10月1日時点で7596万人とピーク時(7年)に比べて13%減少。これが77年には4529万人まで減ると推測されている。
労働市場に詳しい第一生命経済研究所の星野卓也氏は、「客をカメラで監視するプライバシーの問題や、雇用を大切にする日本企業の文化などAI採用のハードルは高いが、生産性向上やコストカットのメリットがあり、徐々に普及するだろう」とみている。
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■人工知能(AI) 人間の脳が行っている知的作業をコンピューターが代替する技術・システムの総称。コンピューターの容量や処理速度が飛躍的に向上し、コンピューター自身が複雑な学習を行う「ディープラーニング(深層学習)」という手法が開発されたことで、さまざまな分野で活用が始まっている。
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