【山本隆三の快刀乱麻】蜜月だったトヨタ、テスラ競合に

 
テスラのイーロン・マスクCEO(左)とトヨタの豊田章男社長=2010年11月、東京都港区南青山

 ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)に力を入れているトヨタ自動車は最近まで、電池だけで走る純電気自動車(BEV)には冷淡だった。難しい制御技術を必要とせず、部品数も少ないBEVはトヨタが取り組むまでもないレベルの技術と考えていたのかもしれない。(常葉大学経営学部教授・山本隆三)

 トヨタの内山田竹志会長は2017年9月、米ニュース専門チャンネルCNBCのインタビューで、BEVに関して次のようにコメントしていた。「BEVに反対しているわけではないが、BEVには航続距離、電池寿命の問題がある。ただ、米国、中国のように政府機関がBEV推進政策を採ると、自動車メーカーは政府機関の意向に従うか、あるいは廃業するリスクを取るかを迫られる。トヨタも例外ではないが、BEVが消費者に早く受け入れられるかは疑問かもしれない」

 BEV普及に懐疑的だったトヨタが、かつて一度だけBEVを製造したことがある。トヨタは10年、米国のBEVメーカー、テスラの株式を米ナスダック市場への上場直後に5000万ドル購入し、BEVと関連部品の開発で協業関係に入る。この協業により開発されたのがトヨタのSUV(スポーツ用多目的車)、RAV4のBEV版だった。12年から米カリフォルニア州で販売されたが、販売目標を達成することなく製造は終了した。

 トヨタは16年末までにテスラ株を全て売却し、提携関係は解消された。ちなみに、上場時に17ドルだったテスラ株は、16年末には200ドルを超えていたので、株式価値は6年間で10倍以上になったことになる。

 トヨタの豊田章男社長が、テスラのイーロン・マスクCEOと意気投合し、「テスラが持つチャレンジ精神、素早い意思決定、柔軟性をトヨタも学ぶ必要がある」として始まった提携だったが、思い描いたような成果を得ることはできなかったようだ。

 その後、トヨタはBEV開発から距離を置くことになったが、BEV、PHVの累積台数は今後、飛躍的に増加し、大きな市場になると予測されている。そしてトヨタは17年、BEVの生産に本格的に乗り出すことを明らかにした。

 内山田会長が指摘したように、BEVには電池という大きな問題がある。トヨタは高性能電池がPHVを含むEV開発の鍵と考えたのだろう。トヨタとパナソニックは今年1月22日、車載用電池の開発・製造を行う合弁会社を20年末までに設立すると発表した。

 パナソニックは、テスラと米ネバダ州の大規模工場(ギガ・ファクトリー)で電池を製造している。かつて蜜月にあったトヨタとテスラは、パナソニックを挟み競合関係になる。

 対中韓、パナとEV電池製造

 ◆テスラとパナソニック

 テスラは14年2月、ギガ・ファクトリーの建設計画を発表した。同社の20年時点のEV予想生産台数50万台に合わせて、最大で年産3500万キロワット時のセルを生産する従業員6500人の工場を電池メーカーと共同で建設する内容だった。敷地面積500~1000エーカー(約200万~400万平方メートル)、総投資額は40億~50億ドル(約4400億~5500億円)。テスラの投資額は約20億ドルとされた。全世界のセル生産量3400万キロワット時(13年)を上回る規模の経済により、電池コストを30%以上引き下げることを見込んでいる。

 テスラとパナソニックは14年7月、ギガ・ファクトリーの共同建設で合意したと発表した。テスラが土地、建物、インフラを、パナソニックが設備、関連機器を提供し、運営は両社が共同で行うというものだった。

 テスラの発表によると、ギガ・ファクトリーは18年半ばの時点で、セル年産2000万キロワット時レベルに到達した。テスラのBEV「モデル3」用の電池に加え、家庭用、事業用の蓄電池生産も行っている。

 そのテスラは16年、太陽光パネル製造・販売会社ソーラーシティを買収し、翌17年にはセル、パネル、蓄電池製造を行うギガ・ファクトリー2(米ニューヨーク州バファロー)が操業を開始した。フル生産時には、年産200万キロワット時に達する予定だ。

 さらにテスラは、中国で「モデル3」と新型の小型クロス・オーバー「モデルY」の生産を行うギガ・ファクトリー3の建設を計画している。上海市の応勇市長は昨年12月、ギガ・ファクトリー3が19年後半に生産開始予定であることを明らかにした。

 この発表に先立ちマスクCEOはツイッターで、「長期的には、現地生産用は現地で調達するのがコスト面で極めて重要。中国のギガ・ファクトリー用セルは、需要をタイムリーに満たすためパナソニックを含め5、6社から調達する公算が大」とつぶやいた。

 今年1月22日のロイター通信は、テスラが天津力神電池とセル供給の覚書を締結したと伝えた。テスラは「同社から見積もりを入手しているが、それ以上の進展はない」とコメントしているが、中国ではパナソニックとの関係が希薄化することになりそうだ。

 ◆パナソニックとトヨタ

 EV市場は18年、大きく拡大した。世界販売台数は前年からほぼ倍増の200万台を超え、うち約110万台は中国市場での販売とみられるが、詳細な数字はまだ発表されていない。一方、世界2位の米国市場の数字は既に公表されている。車種別では、テスラのモデル3が14万台弱でトップとなり、2位プリウスPHVが約2万8000台。トヨタのシェアは7.6%にすぎない。

 EVで最も重要な部品は電池だが、現在のリチウムイオン電池では、安全性と性能向上を同時に達成することができないとされ、こうした欠点を克服する全個体電池の開発に多くのメーカーが注力している。

 トヨタはパナソニックと共同で、低コスト、高エネルギー密度、安全性に優れた全個体電池など高性能電池の開発に取り組むため、トヨタ51%、パナソニック49%の出資により合弁事業を開始することを決めた。

 現在、中国メーカーがEV用電池シェアの60%を占めており、中国CATL、BYDなどは生産能力の大幅な拡張を計画している。また、韓国のサムスンSDI、LG化学なども能力拡張を急いでいる。こうした中韓企業との競合を勝ち抜くには、パナソニックとトヨタのノウハウを持ち寄ることが必要との判断だろう。製品はパナソニックのルートで他の自動車メーカーにも販売されると報道されている。

 テスラとの共同事業で力を付けたパナソニックとトヨタの協業は、成果を生む可能性が高いと思われる。かつて蓄電池で世界一のシェアを持っていた日本企業が、世界市場で中韓企業を相手にシェアを奪うことも期待できそうだ。

【プロフィル】山本隆三

 やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。