【高論卓説】マスク着用したままの顧客対応 スキル向上訓練通じて意識に変化

 
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 インフルエンザ流行や花粉飛散が懸念される中、マスク論争が勃発している。顧客と接する社員がマスクをしたまま対応することの是非が問われている。社員は「健康維持や事前予防はもとより、顧客に心配をかけまいと、マスク着用は当然だ」と主張する。一方、管理者は「マスク着用での顧客対応は、顧客に失礼、声が聞こえづらい、不要な時までマスクをしている、顧客に好感を持たれない、ひいては企業イメージダウンだ」とマスクなしでの接客を奨励する。(山口博)

 レジカウンターに「マスクを着用して業務をしています」と掲示して、全員マスク着用で接客している大手書店もある一方、マスクを着用しないで接客している店舗もある。マスク禁止で顧客対応している銀行窓口もあれば、社員の判断にまかせているところもある。青森県むつ市役所が、体調がすぐれない時には内部の仕事をさせるなどの配慮をした上で、市民と接する窓口担当職員はマスクを着用しないという対応をし始めた。

 顧客対応社員のマスク着用是非は健康維持・事前予防の必要性と顧客満足向上の要請の対立構造を示している。重視すべきは内(社員)か外(顧客)か、尊重すべきは個の事情か会社の目的か、安全衛生をとるかビジネス伸展をとるか、議論の決着はつかない状況だ。一般社員と管理職の対立に発展している様相だ。

 ビジネススキルを向上させる演習プログラムを実施していると、マスク着用者が増えていることに気づく。話法を繰り出しているさまをスマートフォンで自撮りして、録画内容を自分で確認し、話法や表現に磨きをかける反復演習をしている。大きなマスクをしたまま自撮りする参加者も出始めた。初めてその状況に直面したときには、マスクをしたままでは、自分の表情が分からないだろうにと、気になったものだ。

 しかし、個々の社員のマスク着用ニーズは極めて高い。今日では、接客担当者がマスクをしていた方が、衛生上安心だと思う顧客も出始めている。もはや、論争に決着をつけることは困難だという思いに至ったときに、マスクを着用したまま自撮りしていた参加者を思い起こした。だったら、マスクをしたまま、顧客に失礼に当たらない、声が聞こえづらくない、顧客に好感をもたれる、そんな表現力を身に付けてもらい、管理職の懸念を払拭すればよいではないかというわけだ。

 「そんなうまい話があるのか」と思う人がいるかもしれない。しかし、それらを確かに実現できる方法があるのだ。20年来ビジネススキル演習を実施してきて、日本のビジネスパーソンに、相手がどのスキルを発揮すると巻き込まれやすいかと聞くと、目の表現力、アイコンタクトのスキルと答える人が最も多い。

 大判のマスクをしていても、目は隠れていないので、最も影響力を発揮できるアイコンタクトのスキルは駆使できる。マスクをしていても声の表現力や、マスクに影響を受けないボディーランゲージを駆使すれば、かなりの程度、顧客を巻き込むことができる。

 このスキル訓練は、参加者全員が、マスクを着用したまま実施する。そして、スキルが高まってくると、マスクを外して、スキルを試したいという気持ちになる人が出てくる。マスク着用の是非を頭で考えて論争することよりも、スキル訓練するという行動自体が、意識を変えることに間違いなく役立つのだ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役、慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。