【高論卓説】過去最多の無投票当選 制度の欠陥露呈、民意反映とはいえず

 

 統一地方選挙で都道府県議会議員の実に27%が無投票で当選した。過去最多の割合だ。立候補者数が定数を超えない場合、投票を行わないで、立候補者を当選人と定める公職選挙法の規定による。

 岐阜(48%)、香川(46%)、広島(44%)、熊本(43%)など40%を超える水準の県もある。4年前は行政の長の35%、都道府県議会議員の22%が無投票当選だ。全国で行政の長の3人に1人、議員の4人に1人、多い県で何と2人に1人近くが無投票で当選していることは無視できない。民意が反映されているとは言い難く、選挙制度自体の形骸化に拍車をかけているように思えてならない。

 そもそも選挙制度は、行政や議会の担い手を有権者が選出するという、民主主義を体現することを目的とした仕組みだ。その仕組みの中に、民主主義を体現するという目的を損なう、本末転倒な規定が残ってしまっていることが問題なのだ。

 無投票当選規定は、大正14(1925)年5月に初めて規定されている。当時はむしろ候補者の乱立が常態化する中で、立候補者数が定数を超えないことは例外として位置づけられていた。しかし、今日では例外といえる水準ではない。

 行政の長や地方公共団体の議員に対して、解職請求制度がある。選挙で選出された行政の長や議員に対しては、就任後1年間はこの請求ができないが、無投票当選の行政の長や議員に対しては就任直後からそれができる。無投票当選規定が民主主義を体現していないという欠陥を、解職請求制度が補完しているように見えるが、そもそも選挙の手続きなしに選任してしまうこと自体が問題だ。

 立候補者数が定数を超えなかったことが、立候補者選出の過程で、その立候補者が暗黙のうちに支持されたという考え方をする人もいる。しかし、仮にそのような状況であったとしても、あくまで、支持がされているかもしれないという推測の域を越えず、その候補者が有権者の十分な支持を得たか否かは、明示されていないのだ。民主主義を体現する仕組みには、明示的に示すということは不可欠だ。

 一度選挙になったら、得票数の多い順に定数に至るまで当選人が決まるわけだが、当選人の得票数は、最低限、法定得票数に達している必要がある。法定得票数は、有効得票の総数を定数で除した数の4分の1だ。一方、無投票当選者は、法定得票を獲得した事実すらもたないということになる。民主主義を実現するという制度としての根幹の部分で、不備があると言わざるを得ない。

 せめて法定得票を獲得しているということを明示できる仕組みが構築できないものか。立候補者数が定数を超えない時でも投票を行い、法定得票を獲得することで当選人とすることは一つの方法だ。

 もちろん、コストの問題は残る。統一地方選挙に限らず複数の選挙を同日に行うことはコスト削減にかなうし、セキュリティー問題を解消しインターネット投票の実現にも期待したい。

 在学中から、公職選挙法という一つの制度の是正の方途を模索してきたことが契機となって、その後、組織・人事制度の構築や改善・運用に従事してきた。大局的に、そして、生活全般にわたり多大な影響を与える行政の長や議員を選出する制度の根本にある、無投票当選規定という欠陥を放置しておいてよいとは到底思えない。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役、慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。