米中協議の陰で忍び寄る“隔離” 企業も「安保・経済の一体化」に直面
関税合戦をめぐる米中貿易協議は、首脳会談での決着が目指されている。株式市場も妥結を期待して既にそれを織り込み済みだ。来年の大統領選挙に向けて株価を重視するトランプ大統領にとって、株価急落を招きかねない決裂という選択肢はない。あとは成果を誇示するためのドラマ仕立ての見栄えだ。そのためタイミングも先般の米朝首脳会談とダブってかすんでしまうことを避けた。(中部大特任教授 細川昌彦)
経済減速もあって妥結を求める中国も大豆の大量購入など、トランプ氏が農家にアピールできる成果を用意する。国家が貿易を管理する中国にとって、こうしたコミットは容易だ。よって管理貿易志向のトランプ政権とは相性がいい。
知的財産権や国有企業への補助金など、共産党政権の根幹にかかわる問題では“表面的な構造改革”でしのごうとする。強制的な技術移転の要求を禁じる法律の制定も実効性は定かでない。知的財産権の強化といっても罰則の強化は本来の要求からはズレた回答だ。
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は構造問題にこだわるが、見栄え重視のトランプ氏の関心ではない。中国もそれを見透かし、トランプ氏との直接取引に持ち込み、表面的な構造改革で制裁関税を免れようとする。こうした対トランプ政権の対応は北朝鮮と軌を一にする。
一方、トランプ氏が高関税で仕掛けた米中の“取引”とは別に、ワシントンの議会をはじめとする主流派による対中技術覇権阻止は着実に進展している。その主たる手段が対米投資の規制と輸出管理の強化だ。
かつての米ソ冷戦期において共産圏への技術流出を阻止する手段が対共産圏輸出調整委員会(ココム)であった。今、米国は中国を念頭に「新興技術」の輸出を規制する、いわば“新型の対中ココム”の準備を急ぐ。まず独自に規制をスタートさせ、いずれ同盟国にも同調を求めてくるだろう。日本も米中のはざまで難しい判断が必要になる。
中国の個別企業を標的にした動きも加速している。その代表格として華為技術(ファーウェイ)が“ロックオン”された。
習近平政権にとって、ハイテク技術の軍民融合を目指す国家戦略「中国製造2025」は政権を支える生命線で、華為はその象徴的存在とみられている。米国の警戒感の背景は、華為も共産党政権の統治の“くびき”から逃れられないという事実だ。中国ではあらゆる組織、個人は国家からの要請で情報を提供する義務が国家情報法で規定されている。華為もこれに反することはできない。
米中協議の最中にも、華為排除の包囲網のために東欧などに働きかける米国と、その包囲網を崩すためにオーストラリア、ニュージーランドを揺さぶる中国の激しいせめぎ合いが繰り広げられている。さらに米国は華為に対し、「調達から排除する」だけでなく、「部材の供給を遮断する」準備も進めている。具体的には、輸出管理による規制だ。「買わない」「使わない」から「売らない」「作らせない」へと発展する。
最近、ワシントンでしばしば耳にする言葉が「隔離」だ。かつての米ソ冷戦期と違って、経済がグローバル化している今日、かつてのような経済全般を分断する「鉄のカーテン」は非現実的だ。しかし安全保障の機微に関わるハイテク分野では、供給網が二分される恐れはあるのだ。
その際、米国にとって不可欠なのは同盟国の協力だ。日本にとってもひとごとではない。華為は日本の部材メーカーにとっても重要顧客であり、難しい対応を迫られることになる。少なくとも米国から「漁夫の利」とみられることのないよう慎重さが求められる。
日本は日米安保の下で、安全保障面での米国依存が宿命で、ある意味、日本もくびきから逃れられない。今や経済と安保が一体化して議論される状況になってきた。そうした中、企業も白黒がはっきりしない難しい経営判断を迫られる。
トランプ氏のドラマ仕立ての貿易協議にばかり目を奪われていてはいけない。もっと米国の本質的な部分では着実に対中技術封鎖の動きが進展していることを見逃してはならない。日本企業も経営リスクとしての備えが急務になっている。
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