【中小企業へのエール】米中貿易戦争のウラで急速「経済融合」 情勢を知りチャンスを狙え
先日、ある中国のIT会社の社長とじっくり話す機会があった。中国経済は今、不動産や建設など従来型の産業成長が大幅に鈍化していく一方、より豊かで便利な社会を享受したい人々の欲求を満たすために、IT産業の勢いが衰えるところを知らず、電子商取引・キャッシュレス決済や自動運転・シェアリングエコノミーなどの分野では、今や米国をもしのいでいる。(旭川大学客員教授・増山壽一)
そんな中、中国のITセキュリティー技術は情報システムの防御と、競争相手を攻撃する双方で米国を脅かしてきた。
最近では、そのセキュリティー対策技術自体が強力で実践的なことから、ライバルである米大手IT企業にまで採用され、中国企業からの攻撃に備えている実態もよく分かってきた。
新聞紙面での米中貿易戦争の裏で、実は米中の経済融合は急速に進んでいるのだ。
そして今、日本は極めて魅力ある地域として、両国から熱烈なラブコールが寄せられている。ひと昔前まで「JAPAN PASSING」などと素通りされていた。
ラブコールの背景には、政治的なカムフラージュと日本の技術力と市場の成熟性がある。
米中は経済的には急速に一体化している半面、政治的には厳しく対立している。日本を介して両国の関係をカムフラージュしようとしており、日本は米中双方から政治的に安全なパートナーに見えるのだ。
また日本の技術力やマーケットは、アイデア先行で現在のマーケットを軽視する米国ビジネスと、巨大なマーケットを背景に実用化のスピード重視で失敗を恐れない中国との間で、その両者の欠点を補う役目を果たしている。
革新的なアイデアを現場へ落とし込み、既存マーケットをたたき潰すのではなく、徐々に浸透していく、日本の手法が高く評価されている。
元気な中小企業にとって米中貿易戦争はチャンスだ。強さを見せつけ、米中をうまく使って世界を目指そう。ただ両国間の事情をよく理解し、その仲介の労をしっかりとらないと、スパイや単なる口利きとして非難され、股割き状態になる。
筆者の経験や考え方をまとめた「AI(愛)ある自頭を持つ!」を産経新聞出版から出版し、アマゾン、有名書店で販売中。是非感想などをお寄せください。(office@masuyama-toshikazu.com)
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【プロフィル】増山壽一
ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。環境省特別参与。56歳。
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