【論風】米、ファーウェイ問題の教訓 日本の技術安全保障の危機

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 昨年12月、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長がカナダで逮捕された。米国は安全保障上のリスクがあるとして日本を含む同盟国に中国の華為や同業のZTEを通信システムから排除するよう要請した。日本政府は国名や企業名を出していないが、通信システムの安全保障リスクを低減するよう関連企業に要請した。(知財評論家、元特許庁長官・荒井寿光)

 これを受けソフトバンクは、華為から北欧のエリクソンやノキアに切り替えると報じられている。転換先が日本企業でないことに驚いた。かつて日本企業は世界トップの通信技術を誇っていたが、次世代通信「5G」に単独で対応できる通信機器やスマートフォンメーカーがなくなった。半導体メーカーも人工知能(AI)に必要なソフトウエア企業も国際競争に負けている。

 技術空洞化の原因

 なぜ日本は技術的にかくも弱くなったのだろうか。第1の理由は、「技術コモディティー(商品)」論だ。技術は通常のコモディティーであり、いつでも金を出せば買え、安全保障の理由で国際取引が制限されることがないと考え、自主技術開発をやめた。

 第2は、グローバル化だ。世界貿易機関(WTO)が発足し、世界のグローバル化は進み、モノも技術も国境を越えて自由に取引されると考えた。

 第3は、日本企業の選択と集中だ。結果として既存技術を選択し、リスクのある将来技術の開発や新分野への挑戦を選択しなかった。

 これらの結果、日本企業は海外投資を進め、国内の工場や研究所を閉鎖・縮小し、リストラにより技術者が海外に流出し、国内の技術が空洞化した。

 しかし、今や再び技術が国家の安全保障の根幹をなすという「技術安全保障」の時代がやってきた。米国では、中国が米国のハイテク技術を盗み、強制移転させているとして中国脅威論が強くなっている。国防権限法では、華為、ZTEなど中国5社からの購入を禁止し、同盟国にも同調するよう求めている。米国は先端技術の国外流出規制を強化している。米国と中国の技術や経済を引き離し、中国封じ込めの経済ブロックを作ろうという議論も出ている。一方、中国は国内での自主技術開発を強力に進めている。ハイテク技術が自由に国際取引される時代は終わった。

 このような国際環境の変化と急速な技術革新に対応するため、日本はもう一度自主技術開発に取り組まなければならない。自主技術を持って始めて国際共同ビジネスや国際標準を進めることができる。

 自主技術開発に回帰を

 第1に自主技術を作ること。情報通信、半導体、AI、ビッグデータ、バイオなど次世代技術分野の開発戦略を作る。その実現のため、大学、研究機関、民間の共同開発体制を作る。国の研究開発費を先端分野に集中投与する。税制措置により内部留保を活用して企業の国内技術開発を進める。優秀な研究者をハイテク分野にシフトする。

 第2に自主技術を育てること。国のプロジェクトや自動運転開発などにより社会で実装することを支援する。企業の実用化を税制上優遇する。政府系のファンドは、資金の運用ではなく国内の自主技術の実用化に集中投資してベンチャー企業の振興を図る。

 第3に、自主技術を守ること。日本の技術情報管理は甘い。人の管理を強化するため「セキュリティー・クリアランス(秘密取扱許可)制度」を導入する。今も半導体技術者が近隣国で働いているが、外国への人材流出を防ぐ。警察は技術スパイをもっと摘発する。サイバースパイによる技術やデータの窃盗が盛んになっているので、サイバーセキュリティー対策を強化する。そのためサイバー防衛を自衛隊の任務とする。このような技術安全保障戦略により、日本人の創造力を発揮し、日本の産業経済を再活性化することが可能となる。

【プロフィル】荒井寿光

 あらい・ひさみつ 東大法卒、ハーバード大大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知財戦略推進事務局長、世界工業所有権機関政策委員を歴任。退官後、日本初の「知財評論家」を名乗り知財立国推進に向けて活動。著書に「知財革命」「知財立国」。72歳。長野県出身。