離職ママの復業、企業と橋渡し マザープラス・巽房子社長
出産や子育てで離職した母親に、自宅やわずかな時間でも働ける機会を提供する大阪のベンチャー、マザープラスが注目を集めている。豊富な知識、経験を持つ母親ら約1万人の会員と、その能力をビジネスに活用したい企業とを橋渡しするサービスを展開。インターネットを使い、都市部の企業が発注する仕事を地方に住む人が請け負える仕組みの構築も進めている。同社を立ち上げたのは、自身も2人の子供を持つ巽房子社長だ。
フリマに手作り製品
巽さんはスポーツ用品メーカー、人材派遣会社などで勤務した後、結婚を機に離職。出産、育児に専念する中、社会とのつながりの薄さに強い喪失感を感じた。
2006年に2人目の子供を出産した直後、かねて着目していたベビーマッサージ教室を開設。わずか2年で約500人が受講する人気教室となった。しかし、多くの受講生が高い技能を持っているにもかかわらず、育児を理由に離職せざるを得ない経験があることを知り、「彼女たちの役に立ちたい」との思いを強めたという。
巽さんは「彼女らは仕事から離れたため、わずかな金額の外食も控えていた。1カ月に3万円でも稼げれば、そのような状況は変わる」と考えたという。行政ではそのような母親を支援する施策が見つからず、「ならば私が」と起業を決意。08年5月にマザープラスを設立した。
巽さんは、母親らが手芸品などの作製で高い技術を持っている点に着目。09年から大阪市内で彼女らが手作り製品を販売できるフリーマーケット「マルシェドママン」を立ち上げた。
運営資金は協賛する企業から集め、母親らはわずかな出店料を支払えば、売り上げは全て自身の収入に充てられる仕組みを考案。話題を呼び、当初は20ブース程度の出店だったのが、「倍々で増えていき、現在は120ブース程度が出店している」という。提携した商業施設内で開催し、イベントそのものを集客ツールに活用するなどの展開も行っている。
会員、全国に1万人
09年からマザープラスの会員募集を開始し、会員数が3000人を超えたころから企業側から「イベントで商品のサンプリングをしたい」「会員のお母さんたちに参加してもらい、自社商品について語り合ってもらう座談会を開催したい」などの要望や問い合わせが増加。巽さんはそのような企業側の声を事業化し、それらの担い手として会員を募るサービスの展開も始めた。
現在、会員規模は全国で1万人を超えており、商品モニタリングやサンプリングなどにとどまらず、16年には有料職業紹介事業の認可を得て、各種分野で高い技能や経験を持つ会員に、実際に仕事を紹介する事業も行っている。
巽さんは「子供や家庭を持って働き続けるには、独身時代とは違う形の労働環境が必要」と訴える。時間や場所の制約を可能な限り排除し、フレキシブルに働ける形態が必要との観点だ。「お母さんだって、夢を持っていい」との思いから、15年には会員らが自身の夢の実現に向けて語り合う交流イベントも開始。現在は、全国各地の支援団体と連携し、大阪以外の地域でも展開している。
さらに企業から提供された仕事を紹介する仕組みとして、各地の支援団体と連携し、各団体に登録する母親らが閲覧できるサイトを5月にも開設する計画だ。
インターネットを使えば、場所を問わずに働くことが可能なことから、企業が集中する都市部の仕事を地方に回せる効果も見込めると期待している。東京でも事業開始を計画しており、今後の広がりに期待が高まる。(黒川信雄)
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【プロフィル】巽房子
たつみ・ふさこ スポーツ用品メーカー、人材派遣会社での勤務を経て2008年5月に「マザープラス」設立。47歳。2児の母。三重県熊野市出身。
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【会社概要】マザープラス
▽本社=大阪市中央区久太郎町3-5-5 丸忠第一ビル303号
▽設立=2008年5月
▽資本金=1843万7500円
▽事業内容=ママの総合代理店(ママと企業のマッチングおよびマーケティング事業、有料職業紹介、イベント運営、児童発達支援・放課後などデイサービス・女子学生支援など)
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