【試乗スケッチ】レクサスRCF“今さら”マイチェンのなぜ 大排気量NAの生命線に磨き

 

 レクサスRCFがデビューしたのが2014年。今年は2019年だ。大排気量NA+FRというパッケージを武器に、熱い走りのクルマとして存在感を誇ってきた。だがもう5年が経つ。となれば、そろそろフルモデルチェンジの噂がチラホラ伝わってきても不自然ではない時期なのだが、ここにきてレクサスは、RCFをフルモデルチェンジさせることなく、マイナーチェンジと車種追加の二刀流でカンフル剤を打ち込んできた。その意図は…。

レクサスRCFの「パフォーマンスパッケージ」と木下隆之さん

 今回のマイナーチェンジは、志の本気度がグイグイと伝わってくる。単なるフェイスリフトでお茶を濁すのではなく、徹底して基本性能を高めて送り込んできたといえる。「フルモデルチェンジしないの?」という外野の口を黙らせるほどの力の入れようだ。

ターボに逃げず

 基本パッケージには変更はない。フロントに搭載されるパワーユニットは、5リッターもの大排気量を誇るV型8気筒エンジンである。組み合わされるミッションは8速ATだ。ダウンサイジングという大義名分の元に、ターボチャージャーに逃げることをしなかったことにはホッとした。高級クーペのLCで評価の高いLG-Aプラットフォームを期待していたのは正直な気持ちだが、シャシーは従来型を踏襲する。

 エンジン細部には手が入っている。インテークの細工や、ムービングパーツの軽量化が進んだ。その狙いはズバリ、鋭いレスポンスを求めたからだ。最大出力は474ps。驚くところはその数字ではなく、レスポンスである。つまりRCFは、現代では数少ないNAエンジンの生命線であるレスポンスに磨きをかけたのである。

レクサスRCFの「パフォーマンスパッケージ」

 素性の良い大排気量NAエンジンは、アクセルペダルの1ミリが1馬力として反応する。エンジン回転が上がって初めて得られる排気圧を利用してトルクを高めるターボチャージャーには、その機構上、レスポンス遅れは避けられない。レクサスは、走りの自由度を削ぐ応答遅れを嫌った。RCFは、ターボエンジンでは得られない鋭いレスポンスをベースにした走りに磨きをかけたのである。

レクサスRCFのエアロフィン

 実はそれは、エンジンだけでなくシャシーにも及んだことでも証明される。今回新たに加わった「パフォーマンスパッケージ」が特にその象徴だ。いわばサーキット専用モデルとも思えるそれは、カーボンセラミックブレーキやチタンマフラー、カーボンボンネット…等の軽量マテリアルを贅沢に採用することで、徹底したダイエットに成功している。標準モデルに比較して80kgも軽くなっているというから、助手席に体格のいい男を乗せた時のズッシリ感や、ガソリンタンクを満タンにした直後の鈍重な感覚分を削いでいるのだ。重量増を招くことを理由に、リアウイングは電動式ではなく固定式になった。あるいはサスペンションの取り付け部や、アーム類をアルミにするなど軽量化に妥協の形跡はない。

 実際にサーキットを走らせると、軽量化の恩恵が味わえる。もともとは決して軽くないエンジンをフロントの高い位置に搭載することのデメリットが鼻についたが、フロントヘビーの悲しい感覚は薄らいでいる。タイヤが悲鳴をあげるような限界コーナリングでさえ、ステアリングを切り込むことでノーズをエイペックス(コーナーの内側の頂点)に引き戻すことも容易になった。

 そしてそこで、アクセルペダルを踏み込んでみる。すると右足の動きに忠実に、コーナーリングの軌跡が変化する様子が実感として残るのだ。磨き上げたエンジンレスポンスが、コーナリングに影響することを突きつける。

レクサスRCF

 コーナリングはハンドルだけでするのではない。アクセルペダルも第二のステアリングとして有効だ。右足の操作だけでアンダーステアやオーバーステアを自在に引き出すことがドライビングプレジャーであり、走りの醍醐味なのである。それを堪能するためには、鋭い反応を示す大排気量NAエンジンが不可欠だ。だからそこにもメスを入れたというわけである。

 レクサスRCFは、2019年のいまになってビックマイナーチェンジされて誕生した。それはつまり、大排気量NAが消えゆくことを悲しみ哀愁を込め、走りの楽しさを声高に叫んでいるように思えた。

 【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらから。

【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター

東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。