【令和経済のキーワード(2)】古森重隆・富士フイルムHD会長 「成長の維持」モノづくりとITの融合
令和時代を迎える日本経済のキーワードとして「成長の維持」を挙げたい。平成を「失われた30年」と呼ぶことには賛成できない。苦境に陥った企業もあるが、それは経営がきちんとできていなかったという個別の問題であって、時代の特徴だとはいえない。
平成の始まりは、工業立国・モノづくり大国としての日本の勢いが止まるのと同じタイミングだった。プラザ合意(1985年)後の急激な円高、マネーゲームとバブル崩壊を経て、製造業の多くが生産拠点を国外へ移した。
そのため、国内総生産(GDP)の尺度でみれば成長は鈍化したが、海外展開などを通じて日本企業の体質は確実に強くなっている。米社会学者エズラ・ヴォーゲルが79年に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を著した当時と比べれば、確かに日本の製造業の世界的覇権は失われたが、それでも平成は決して停滞した時代ではなかったはずだ。
当社は21世紀初めに、写真のデジタル化という巨大な荒波に見舞われた。利益の約7割を稼いでいた写真フィルムや現像関連市場が急速に縮小する中、強みの技術を生かすことで構造転換と再成長を成し遂げた。
IT化がどれだけ進んでも、リアルなモノづくりはなくならない。カメラや複合機が示すように、「作り込み」の技術は今も日本メーカーが持つ絶対的な強みだ。IT、サイバーと実際のモノづくりを組み合わせれば、令和時代も世界と戦っていけるだろう。
ただ、人口減少は大きな問題だ。働き手不足を人工知能(AI)などで補っても、若者が減れば社会全体の活力が衰える。移民が増えれば、別な課題を生む可能性がある。少子化対策や子供の教育にもっと長期的な視野で取り組まなくてはならず、社会として投資を惜しむべきではない。
企業経営も、長期と短期の視点が欠かせない。社会へ価値を提供し将来に向けて投資を行い、組織として永続していくことが企業の使命だ。平成時代に短期的な株主利益が重視されるようになったが、バランスを再考する必要がある。(談)
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こもり・しげたか 東大経卒、昭和38年富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)。富士フイルムヨーロッパ社長などを経て、平成12年に社長。24年6月から会長。19~20年にNHK経営委員長も務めた。79歳。長崎県出身。
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