【マネジメント新時代】上海自動車ショーから見える企業の企図 日系メーカーは“再考”の時期

 

 中国では、北京と上海が交互にモーターショーを開催している。今年は上海の番に当たり、4月20日から25日まで一般公開された。昨年と同様、出品社数は2000社を超え、世界最大規模の自動車ショーとなっている。2017年の東京モーターショーが約160社の出品社数であり、上海はいかに巨大な自動車ショーとなっているかが分かる。筆者も前回に続いて視察しているので、この上海モーターショーから垣間見える自動車メーカーの企図について考えてみたい。(日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎)

 “世界最大”の位置付け

 近年は、世界各地でモーターショーが開催されている。これまでの世界の5大モーターショーといえば、東京、フランクフルト、デトロイト、ジュネーブ、そしてパリが一般的であった。しかし、東京モーターショーもそうだが、日系自動車メーカー以外の出品社が激減し、どちらかといえばローカルモーターショーに近いものとなっている。また、出品車に関しても、その地域で販売している自動車を並べることが多く、営業・広報活動的意味合いが強くなってきている。

 東京モーターショーに限らず、ほぼ毎月のようにどこかでモーターショーが開催されていることから、自動車メーカーにとっても、ある地域では販売量が少ないからモーターショーへの出品を見送ったり、費用対効果を考え出展を取りやめたりといった対応が考えられる。

 さらに、自動車の販売そのものが変調を来していることも影響を及ぼす。これまで成長を牽引(けんいん)してきた中国の昨年の乗用車販売台数が、米中貿易摩擦などの影響もあり、対前年比でマイナス2.8%の2808万台となった。欧州、米国も同様であり、自動車産業の成長にブレーキがかかったような状況である。

 そのような中、開催された今年の上海モーターショーは2つのことを主張しているように見受けられた。一つは、世界各国から自動車メーカーが競って展示し、中国が依然として自動車産業の中心地であることをアピールしていることだ。このモーターショーに出品しないということは、自動車産業からの脱落を意味するであろう。

 もう一つは、中国が指し示す政策との連動である。ご存じのように、米国のゼロエミッション車(ZEV)規制に倣った中国NEV規制は今年から実施年となる。19年は、ガソリン車の生産・輸入台数に対して、10%のクレジット獲得が必要となる。20年は12%とまで決まっている。そのためには、クレジットを獲得できる新エネルギー車、つまり電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を販売しなければならない。

 このような背景もあるのか、今年の上海モーターショーは異常ともいえるほどの新エネ車のオンパレードであった。中国大手メーカーによるEV、PHEVの展示、さらにはあまり名前の聞いたことのない新興自動車メーカーによる多数のEV展示、そして2年以内に投入されるような新エネルギー車の展示も多かった。中国にて多数の自動車を販売しているドイツも積極的であり、それ以外に韓国、米国なども追随した展示であった。

 日本勢は“東京”にらみ

 一方、日系自動車メーカーの企図は、筆者が見る限り、少し違ってみえた。確かにNEV規制が19年から実施されるために、それに合わせて1~2車種のEV、PHEVなどは準備しているものの、それがメインというわけではなく、かつ大々的に打ち出しているわけでもない。

 その背景として、現地生産しようにも、電池供給の問題があったり、新エネルギー車は価格が高いことから、それほど販売量が見込めるわけではないため、ある意味、球出しはするものの、本格的な普及はもう少し後になると判断しているように見受けた。

 さらに、今年は10月末から東京モーターショーも開催予定であり、新型車や新技術は東京で打ち出そうとの思惑もあるであろう。しかし、冒頭に述べたように、東京は海外からの出品が少ないショーとなっており、今後、どこで自動車メーカーの新型車をお披露目するのか、技術をどう打ち出すのか再考する時期に来ているように思われる。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。62歳。福井県出身。