【健康経営 がんと向き合う】メリットある半面、まだまだ問題も山積 ゲノム医療

 
GMS 竹内規夫社長

 ゲノムとは遺伝子の本体であるDNAに含まれる遺伝情報の全体のことだ。このゲノムを調べ、それに合った治療を行うことをゲノム医療と言う。がんのゲノム医療は、今のところ遺伝子治療ではなく、遺伝子検査から抗がん剤を使うことを指している。標的となるタンパク質の突然変異を調べ、そのタンパク質をターゲットとした抗がん剤(分子標的薬)を使う治療だ。(GMS社長・竹内規夫)

 抗がん剤治療は膵臓(すいぞう)がんならこの抗がん剤、肝臓がんならこの抗がん剤と、がんの種別に合わせて決められている。しかし、実際は膵臓がんでも10人いれば10人とも違う。このため、膵臓がんとひとくくりにするのではなく、遺伝子の突然変異を調べ、それぞれに合った抗がん剤を使う取り組みが行われている。

 肺がんの「EGFR」というタンパクや乳がんや胃がんの「HER2」などでは、以前から遺伝子の突然変異を調べて分子標的薬を使うというケースはあったが、それらは分子標的薬が効く可能性の高いがんに絞られてきた。今後全てのがんでタンパク質の突然変異を調べるようになれば、治療方法の幅は広がることにもなりそうだ。

 こうした取り組みが進めば、比較的効く可能性が高い分子標的薬による治療ができ、副作用も比較的減ることが予想される。これらは治験という形で数年前から全国の病院と製薬会社などが行っている。去年からは先進医療として展開しており、近いうちに保険診療となるだろう。

 ただ、メリットがたくさんある半面で、まだまだ問題も山積している。というのも、遺伝子検査から適切な分子標的薬を見極めることができる医師はまだそんなに多くない。加えて、100以上のタンパク質の突然変異を調べても、それに対応する分子標的薬はまだまだそろっていない。仮に使える抗がん剤が見つかったとしても、保険未承認であった場合、治験や自費診療になってしまう。抗がん剤ではあるので、いつかはがんがその薬に対する耐性を持ち、効果がなくなってしまう。つまり、現状では、根本的な解決にはつながらないことにもなる。

 とはいえ、従来のがん治療から劇的に変わり、患者のメリットが多くなるという点は大きい。調べるタンパク質の突然変異に対して、日本や世界の製薬会社はこぞってそのタンパク質をターゲットとした分子標的薬の開発に乗り出している。ここ20~30年で、原発不明がんや希少がんを含め、使える抗がん剤がないということがない時代になるだろう。

【プロフィル】竹内規夫

 たけうち・のりお 1978年、和歌山県生まれ。がん治療コンサルタント。2008年ごろから、がん患者をサポートする活動を開始。16年、がん治療専門のコンサルタントが、患者をサポートするGMSを設立し、社長に就任。