【高論卓説】消費者不在キャンペーンで物議 地域社会を考えた企業広報を
消費者をないがしろにしたキャンペーンが物議を醸した。ガストを運営するすかいらーくグループである。達成が不可能であろうその企画内容は、1000万円分の食事券(1人上限20万円)をプレゼントするというものであった。全国47都道府県の店舗で1000円以上飲食をした先着50人が対象となるものである。(芝蘭友)
達成するためには、1日平均57店舗を回らなければならない。実に飲食代だけで最低136万円かかる計算だ。営業時間なども考慮して考えると、1時間に2.3店舗以上回らないといけない、など大きな非難を浴びた。全国対象となっているからには、多額の交通費もかかるわけで、いったい誰が得をするのかという情けない企画である。そして、話題となり炎上した。すぐにおわびをして内容を変えたキャンペーンを行うも、炎上商法かと火に油を注ぐことになる。このキャンペーンは消費者不在。まさに話題になればいいという意識の低さを露呈したのではないか。
このキャンペーンの先にはいったい何があるのか。1300店以上あることを知ってほしかったという理由も幼稚である。ホームページには『すべてはお客さまの笑顔のために』をモットーにと書いてあるが、世の中を騒がせ、笑顔は消え、怒りが生まれる結果を引き起こした。飲食業界はアルバイトによる悪ふざけ動画が投稿されるなど、「バイトテロ」と呼ばれるリスクも多く抱えている。労働環境についてさまざまな問題が潜んでいると思うが、企業価値を下げてしまう行動を自ら実施するキャンペーンに同情の余地はない。企業広報とはいったい何なのか。瞬間的に話題になればいいのか。どんなことに力を入れ、どんな社会を目指し、そのためにどのような企業努力をしているのか。それらを考え抜いた広報でなければ社会に応援される企業として存在できないのではないか。
一方、時期を同じくして話題になった企業がある。まさにCSR(企業の社会的責任)を果たしたといえる内容であった。ユニクロを展開するファーストリテイリング、YKK、繊維メーカーのクラボウ、ブラザー販売、大阪モード学園である。
雑貨を作るため、裾丈を切る際に出る端切れをファーストリテイリングが無償で提供。デザインは大阪モード学園の学生に協力を依頼。障害者が手作りした商品を取り扱うセレクトショップからの申し出を快諾した。
セレクトショップの代表は、大阪は商売の町なのに、障害者の工賃が低いままであることを懸念していた。2017年度、厚生労働省の工賃実績によると、就労継続支援B型の全国平均工賃は1万5603円。大阪府は1万1575円で全国最低クラスということである。
関係者の思いが企業を巻き込んでプロジェクトになっていったのだと想像されるが、本来、企業の社会的責任とはこういうことではないだろうか。こちらの話題にはストーリーがある。そして、関係者全員がみな誰かの役に立てるという喜びがある。そしてこれを伝えたいという共感がさらなる話題をまき起こす。
広報活動をする際には、誰のお役に立てているのか、どんな社会を目指して活動しているのかという視点が欠けると企業価値を下げるだけである。地域社会への貢献、環境問題への配慮、さまざまな社会問題に立ち向かう企業や個人が応援され、注目される世の中であってほしいと願う。
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【プロフィル】芝蘭友
しらんゆう ストーリー戦略コンサルタント。グロービス経営大学院修士課程修了。経営学修士(MBA)。うぃずあっぷを2008年に設立し代表取締役に就任。大阪府出身。著書に『死ぬまでに一度は読みたいビジネス名著280の言葉』(かんき出版)がある。
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