【奈良発 輝く】ホーテック、吉野産無垢材の床板で高い防音性を
国土の約7割を森林が占める日本。長らく低迷していた林業は近年、輸出を中心に復調の兆しを見せつつあるが、かつて高級木材として名をはせた吉野杉の産地、奈良県では依然として厳しい状況が続く。山の荒廃が進む中、内装材やフローリングを販売する「ホーテック」(同県大淀町)が県産木材の新たな需要を生み出そうと開発したのが、吉野杉や吉野桧を使った無垢(むく)材の防音フローリング「音静香(おとしずか)」だ。「歴史ある日本の高品質な木材を守らなくては」。堀内嘉久社長(62)の使命感がそこにはあった。
品質の高さに可能性
音静香は県森林技術センターとホーテックが共同開発し、今年3月に販売を開始した。マンション管理組合などで定められる防音基準「LL-45」を満たし、階下への話し声は25デシベル、スプーンを落とした音だと30デシベル近く低減される。これは通常の音量であれば、ほとんど聞こえないほどの防音性能という。
からくりは木材の裏側に入れた切れ込みにある。繊維を切ることで伝わる音を軽減する仕組みだ。切れ込みが深くなれば防音効果が増す一方、強度が下がる。それゆえ、丸太から切り出す無垢材に高い防音性能を持たせるのは難しかった。
ただ、他の産地と比べ、生育に3倍近くの日数を要する吉野産の木材は、とりわけ年輪が細かく、節も少ない。その品質の高さに可能性を見いだし、開発に着手。厚さ1センチの板に8ミリまで切れ込みを入れられることが分かり、1年がかりで完成にこぎ着けた。堀内社長は「丈夫な吉野の木材でなければできなかった」と振り返る。
相応の価格で販売
もともとは菓子メーカーに勤めるサラリーマンだった堀内社長。1984年に結婚し、義理の父が経営する製材会社への入社をきっかけに、木材との付き合いが始まった。質の高い吉野杉は当時、全国から引っ張りだこ。とはいえ、菓子メーカーで新商品開発の現場を見てきた経験から「素材の良さだけではやっていけなくなるのではないか」と一抹の不安もあった。
その不安は的中する。会社の売り上げは平成に入ってから右肩下がりとなり、97年の消費増税を機に10億円から3分の1以下の3億円にまで激減。2000年にはついに倒産してしまう。
それでも、堀内社長はめげなかった。まだショックが癒えぬうちにホーテックを立ち上げると、吉野杉の表面に熱圧縮処理を施して高い強度を実現させた内装材や、傷や汚れが付きにくいフローリングなどを次々に開発。「木を切り出して植樹をするというサイクルが崩れてしまうと簡単には元に戻らない。今なんとかしなければ間に合わない」と危機感を持って商品開発に取り組んだという。
音静香には、「赤身」と呼ばれる最も目が詰まった木の中心部が使用されている。木造家屋の柱やはりにも用いられる部位だ。ホーテックは今後、木の温かみのある風合いと防音性を兼ね備えた高級フローリングとして、大都市のマンション向けに売り出したいとしている。
価格は1平方メートル当たり1万5000~1万8000円。防音処理を施していない無垢材と比べ、5割以上も値は張るが、堀内社長は「良い商品を相応の価格で売ってこそ市場が守られる」ときっぱり。県産木材の需要拡大を担う“切り札”として期待されている。(桑島浩任)
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【会社概要】ホーテック
▽本社=奈良県大淀町桧垣本1078-1
▽設立=2000年12月
▽資本金=600万円
▽従業員=8人
▽売上高=2億円 (18年6月期)
▽事業内容=内装材やフローリングの製造・販売
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