【クルマ三昧】クルマのボディ周りにくっついた“小魚”たち… 実は操縦性に大きく影響

 
小魚のようなエアロスタビライジングフィン

 2013年頃から、レクサスのボディ周りに、小魚のような小さな突起が装着され始めていたことをご存知な方がどれだけおられるだろうか。レクサスを所有する方ならば気になるだろうが、それ以外の方の目には印象として残らない。密かに…といった方が適切だろう。サイズにして、湖に糸を垂らして釣るワカサギのよう。サイドミラーを覆うカバーやその付け根、前後のバンパーサイドやCピラーにそれはある。

 実はこれ、「エアロスタビライジングフィン」という。小魚のような突起によって、サイド面をまとわりつくようにして流れる空気をコントロールしているのだ。空気抵抗係数低減という経済的なメリットだけでなく、操縦性にも影響するというから空気の流れとは不思議なものだ。

 実際にレースでテスト

 実はこれ、僕もレースで実験していた。僕がTOYOTA GAZOO Racingからニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦していた2010年頃、レクサスLFAにペタっと貼りつけてテストを重ねていたのだ。効果を確かめるためだ。

 いやはや、空力とは恐ろしいもので、米粒のような小さな突起ですら走りに影響する。まして小魚なサイズになればけして無視できない。エアロスタビライジングフィンは、ランプサイドの空気の流れを速めて、リアタイヤを安定させるというから驚きだ。ドアミラーの内側のAピラーの付け根にそれはあるのに、リアタイヤが路面に押し付けられ、走りが安定するというのだから不思議なものである。空気の流れを視覚化するのは難しいが、空力実験のための風洞実験棟でテストすれば、そこでの空気の流れがリアウイングまで導かれていたり、あるいはボディの下側に潜り込み持ち上げるような力を抑制していることが見えるのだろう。

 一方、レクサスRCがマイナーチェンジを受けて誕生。改良点などを問いただすと、技術的には空力的な処理が目玉だという。空気の流れを整流するためにデザイン変更したというのだ。

 ささやかな変化で走りが激変

 ただ、現物を前に、指を刺して「これだよ」と説明しなければ判別不能なほど些細な造形変更なのである。新旧のRCを前にして、形状の違いを説明したのだが、なかなか違いを認識してもらえずに苦労した。それほどわずかな違いなのだ。

 リアサイドのウインドーの下部のモールの形状変化などは、気がついている人は専門家でも少ない。小さな爪の先ほどの突起が削られているのだ。メーカーに問い合わせても、特に改まった名称はないという。呼び名がないほどささやかな形状の変化が走りを激変させるというからますます空力とは奥が深い。

 リアバンパーの両サイドに、リアホイールハウス内の圧力を抜くためのスリットが加わった。この効果は歴然で、風船のようにふわふわとした乗り味を抑制する効果がある。下面やサイドから巻き込んだ空気の流れの逃げ場がなければ、その力は車体を持ち上げることになる。スリットから逃がしてやることで、ボディリフトが抑えられるというわけだ。

 といったように、空力とは実に奥が深く、ささやかな細工の積み重ねなのである。特に230km/hで駆け抜けるRCのようなスポーツカーならばなおさらその効果は無視できないというわけだ。

 クルマをしげしげと眺めてみると、様々な発見があって面白い。小さな突起や隆起、穴やスリットには、造形美以外にも技術的な役割が隠されているのである。

 クルマを眺めるのがまた楽しくなった。

 【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちらから。

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【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター

東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。