高論卓説

顧客情報分析に必要なもの 現場観察で描く「カスタマージャーニー」

 通信技術やコンピューターなどの進化に伴い、大量のデータを高速に処理できる技術は驚くほど進んだ。自社で機器を購入しなくても、クラウドサービスを安価に使える。ビッグデータ解析やDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)などのデータ分析サービスも発達した。SNSや音声、画像、動画など扱えるデータの量と質は飛躍的に拡大した。(小塚裕史)

 企業はこういった環境を使い、試行錯誤しながらデータ分析や活用方法の検討を進めている。その一方で、期待していたほど成果が上がらないという声もよく聞く。個人顧客に対するマーケティング活動は、その傾向が見られる領域の一つだ。顧客の属性や嗜好(しこう)性・行動特性と、過去の購買データとの関連性を分析し、適切な商品・サービスの販売を促進する取り組みなのだが、思ったようには進まない。

 ローソンはポンタカードと連携してデータ分析を進めている。店舗のレジ機能だと、購入された商品と金額が分かっても、誰が買ったかまでは管理されない。ポンタカードを介して顧客の属性をレジで読み込み、購買データとひもづける取り組みだ。

 だが、多くの企業では簡単に進まない。障壁の一つは、分析の対象となるデータを集められないことだ。購買データは販売管理システム、顧客情報は顧客管理システム、などのようにシステムが別々に存在し、データが分散している。購買情報と顧客情報とを関連付けることが意外と難しい。外部の分析基盤が安価になるのに対して、社内システムの取り扱いでコストがかかるという皮肉な状況になる。

 データを取り出せたとしても、欠損値があったり、正確に入力されていなかったりする。「クレンジング」という作業によってデータを補完するのだが、地道で時間を要する。システムを古くから使ってきた企業であるほど、データ量は膨大であり手間がかかる。

 それでもデータ分析は進めるべきだ。大抵の企業は、「顧客の行動には、こういう傾向がある」という経験則を持っているのだが、それを数値として定量化できていない。分析結果が経験則と一致(または不一致)していることが分かるだけでも大きな成果だ。

 最初から大きな投資を行ってデータ蓄積や分析の基盤をそろえる必要はない。手元にあるデータを基に、できる範囲で行う。「どういった人が、何を、いつ、いくら購入しているのか」を洗い出す。「なぜこの人が、この行動をしたのだろうか」という疑問をリストアップし、その背景を考える。いわゆるカスタマージャーニーを描くわけだ。

 この際には、現場をよく観察して知っておくことが重要だ。普段から顧客に接している従業員を議論に参加させたり、実際に顧客に聞いてみたりすることも効果的だ。手元にあるデータが、経験や仮説を定量的に指し示すことができるかを照らし合わせてみる。

 データ分析というと、マーケティング部門やIT部門が専門の仕事だと思われることがある。

 だが、なぜ顧客が自社に来てくれているのか、何を期待しているのか、どのようにすればより購入機会が増えるのか、といった課題は、販売の現場が経験として知っていることが多い。現場から遠い場所で分析作業を行ったところで、その実態は見えてこない。不足しているデータの補完をどのようにすればよいかは、現場を見ないと判断がつかない。現場で起きていることの観察や経験が、データ分析を意味のあるものにする。

【プロフィル】小塚裕史

 こづか・ひろし ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。