今回はホットハッチの代名詞、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIを取り上げる。試乗モデルは2月に発売された特別仕様車「ゴルフGTIパフォーマンス」。ベースモデルに専用チューニングを施した“究極のGTI”は、「能ある鷹は爪を隠す」という言葉を具現化したような本格スポーツカーだった。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
体中を走った刺激
都内で広報車をピックアップし、低中速走行が続く一般道で「エコ」「ノーマル」「コンフォート」といったドライブモードをひと通りイジっているうちに、高速道路に合流した。「それじゃ、踏み込んでみようか」-。GTIに対するそれなりの期待感とともに「スポーツ」モードを選択してキックダウンした瞬間、体中に何かがビビッと駆け巡った。刺激的な体験をした時にブルっと鳥肌が立つような感覚だ。
思わず、一人で半笑いしながら「ヤバイね、これ…」。
安直ながらもストレートで分かりやすい言葉だ。「ブボボボォーーーン!」と鳴り響く野太いエンジン音とともに体が背後からシートごと持っていかれるような、まるでロケットにでもまたがっているかのような想像を絶する加速力に圧倒されたのだ。
同僚から「ぜひ乗ってみて」
これまで旧型ゴルフやプラグインハイブリッド車の「GTE」を試乗する機会はあったが、GTIを試すのは初めてだった。ゴルフは現在7代目。新型8代目へのフルモデルチェンジを控える中、なぜ今さら試乗するのかと聞かれれば、理由は2つある。一つは現行型の末期モデルに乗って成熟した走行性能を試したかったということ。もう一つは、最近まで現行型GTIを所有していたクルマ好きの同僚からこれまで何度も「ぜひGTIに乗ってみてほしい。本当に完成度が高くて面白いクルマだから」と強く勧められていたことだ。ちょうどそこにGTIパフォーマンスの発売がタイミングよく重なったのだ。
初代GTIはゴルフのハイパフォーマンスモデルとして1976年に登場。以来、世代交代を続けながら常にホットハッチの代名詞として最高の走りを追求してきた。ライバルであるルノーのメガーヌR.S.やホンダのシビックTYPE Rらと、「スポーツカー開発の聖地」とも呼ばれるドイツ・ニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)を舞台にFF(前輪駆動車)最速の座を競ってきたことでも知られている。ちなみにニュルは1周約20キロの巨大で変化に富んだ世界屈指の超難関コース。高速バトルに慣れたプロレーサーですら約7分間の絶え間ない恐怖感に襲われるそうだ(気になる方はぜひYouTubeのオンボード映像でその過酷さを観ていただきたい)。GTIはこのような環境で走行性能を磨き、最速タイムを打ち立てながら実力の高さを証明してきたのだ。
絶妙の味付け
今回試乗したGTIパフォーマンスは、ベースモデルのGTIをさらにグレードアップさせた“究極のGTI”だ。専用チューニングした2.0リッター直4ターボエンジンは、標準仕様のGTIに15馬力プラスして最高出力245馬力、最大トルク370Nmまで引き上げられている。実はこのGTIパフォーマンス、元々は2017年10月に500台限定で発売されて完売したモデル。今回は特別仕様車として足回りやエンジンはそのままに、前回とは異なる専用19インチアルミホイールを新調して再投入されたのだ。
エクステリアはGTI伝統のハニカムグリルと、左右のLEDヘッドランプを結ぶレッドラインのアクセントが目を惹く。クルマ好きなら遠目から見ても「GTIだ」と分かる象徴的な意匠だ。LEDテールランプには光が流れるタイプのウインカーを採用。フロントのエアロフィンや後部のディフューザーの左右から突き出る2本の太いエキゾーストパイプ、リヤスポイラーや225/35R19の低扁平タイヤの奥に光るレッドキャリパーなど「速さ」「力強さ」を印象付けるスポーティーなディテールが魅力的だが、けっしてやりすぎることのない上品なスタイルが実に好印象。本当に必要なモノだけを装着するというシンプルさの中に、凛とした美しさと清潔感があり、センスの良さを感じた。
インテリアは「GTI」のロゴとレッドステッチをあしらった本革ステアリングホイールやアルミ調ペダルがスポーツマインドを掻き立てる。光沢のあるピアノブラックに仕上げたセンタークラスターには9.2インチの大型タッチスクリーンが組み込まれている。メーターパネルは従来のアナログ型に代わり12.3インチのフルデジタルメーターを採用しており、マップの表示も可能だ。パーツ類の質感はかなり高いのだが、ナビ使用時の文字予測変換がイマイチであるなど、インフォテインメント系の操作性は改善が必要だろう。外国車にありがちだが、日本語による音声ガイドも発音がぎこちない。
キャビンは大人4名が十分快適に過ごせる広さを確保している(定員は5名)。全幅1800ミリがもたらす左右のゆったり感と高さのあるヘッドクリアランスのほか、後席のレッグスペースもこぶし2個分の余裕があった(ご参考までに筆者の身長は172センチ)。内装で筆者が最も気に入ったのが、GTIの“硬派”なイメージに反して程よいソフトさが感じられるシートだ。GTIと言えば伝統のタータンチェック柄シートが一つのアイコンだが、GTIパフォーマンスはレッドラインとハニカムデザインをあしらった専用マイクロフリースシートを採用している。手触りの良さに加え、滑りにくい素材特性がしっかりとドライバーの体をホールドして、抜群の安定感をもたらしてくれるのだ。
実用的な本格スポーツ
肝心の走りは圧巻だった。高速道はもちろん、峠道のワインディングもバリバリと駆け上がっていく。1.4トンの軽量ボディに強力ターボエンジンを搭載した抜群の瞬発力。その動力を余すことなく路面に伝達する7速DSGと、左右輪の最適なトルク配分を可能にするフロントディファレンシャルロック。ダンパーの減衰力を瞬時にコントロールする「DCC」サスペンション。そして、強大なパワーを余裕で受け止める前後の大径ベンチレーテッドブレーキディスク。これら専用装備がGTIの“パフォーマンス”をさらに高い次元へと引き上げているのだ。
実際に速度を上げてもグイグイと切り込んでいくコーナリング性能、4輪がピタリと路面に吸い付くスタビリティ、高速道路での高い直進安定性など、どの速度域でも高い操安性を発揮する。カチッとしたボディ剛性の高さはドイツ車ならでは。足回りは硬めで路面の状況がダイレクトに伝わりやすい。五感を揺さぶるターボの咆哮や「バフォン! バッフォン!」と鳴り響くブリッピング音など、一つひとつの操作に対して様々な音階のサウンドが畳み掛けてくる。刺激が止むことはないのだ。
このように卓越したスポーツ性能の高さがGTIの最大の魅力なのだが、「ノーマル」「コンフォート」「エコ」モードを選択すれば、しっとりとした走りを披露する。DSGは低回転でも不快な揺さぶりは見られず、足回りの味付けや発進加速フィールには柔らかみがある。サウンドもまろやかになるなど、全体的に角が取れた走りは快適かつ上質だ。ラゲージスペースは実用性のある380リットル。派手に飾りすぎないスタイリングは普段使いにも全く違和感がない。だからこそ、冒頭のように、スポーツを主張しすぎない風貌と、「パフォーマンス」の名にふさわしい爆発的なパワーとのギャップの大きさに圧倒されてしまったのだ。GTIはハッチバックという非常に実用的なカタチをした“スポーツカー”だった。次世代モデルの登場が待ち遠しくなってきた。
《ヒトコト言わせて!》
フォルクスワーゲン グループ ジャパン広報部・山神浩平さん「1976年に初代『ゴルフGTI』が欧州で登場して以来、スポーツ性能に加えて、日常での使い勝手を両立させてきたGTIシリーズは、『ポロGTI』『up! GTI』とラインアップを広げてきました。『ゴルフGTIパフォーマンス』は、スポーツチューンされた足回りやよりハイパフォーマンスなエンジンによってパワフルな加速や俊敏なハンドリングが味わえ、さらに専用19インチアルミホイールを装着し、視覚的にも特別な“GTI”を感じられる人気の本格スポーツモデルです。ぜひご試乗されて、フォルクスワーゲンの魅力の一つである『走る楽しさ』とその楽しさを支える最新のテクノロジーに触れていただければと思います」
【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら
■主なスペック(ゴルフGTIパフォーマンス)
全長×全幅×全高:4275×1800×1470ミリ
ホイールベース:2635ミリ
車両重量:1430キロ
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
総排気量:2.0リットル
最高出力:180kW(245ps)/5000-6700rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4300rpm
トランスミッション:7速DSG
駆動方式:FF
タイヤサイズ:225/35R19
定員:5名
燃料タンク容量:50リットル
燃料消費率(JC08モード):14.0キロ/リットル
ステアリング:右
カラー:ダークアイアンブルーメタリック
車両本体価格:465万9000円