通商合意急がず…中国の弱点見抜いた米 交渉は長期化覚悟
米中通商交渉の早期合意観測が市場に根強く存在するが、「根っこ」に米中覇権争いの構図があるだけに、長期化を覚悟すべきだ。それを裏付けるようにトランプ米大統領が15日、国家安全保障上のリスクをもたらす企業の通信機器の米国内使用禁止を定めた大統領令に署名した。合わせて中国華為技術(ファーウェイ)が、米政府の許可なく、米国の重要な技術を購入することを禁止。ファーウェイは多くの製品販売の継続が難しくなる可能性がある。
米国は、半導体内製率が20%という中国の「アキレス腱(けん)」を意識し、半導体や同製造装置の輸出制限をさらに広げる可能性があり、その場合は、中国のIT関連産業に大きな影響が出かねない。
トランプ大統領は昨年8月、ファーウェイと中興通訊(ZTE)との米政府の取引を制限する法案に署名。米連邦通信委員会(FCC)は今月9日、中国の通信最大手、中国移動通信(チャイナ・モバイル)による米国市場参入を全会一致で拒否していた。
21世紀の経済、軍事、社会構造を形成しているのは、人工知能(AI)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などを駆使したデジタル・システムだ。その死命を握っているのは通信速度と情報量であり、高速大容量の5G(第5世代)移動通信システムは血管とも言える。
そこを中国が握ってしまえば、最終的に軍事的な対米優位も確立し、中国の覇権が名実ともに打ち立てられるとの危機感が、米国にはあるとみられる。
米国は、知的財産的価値のある情報の開示を求める中国側の対応の見直しを求め、中央政府や地方政府による企業に対する補助金の大幅もしくは全面的な削減も求めている。
しかし、「中国製造2025」の中でも示されているように、国や地方政府の支援は中国の経済政策の根幹であり、この見直しは中国が推し進めてきた中国流の市場経済運営の見直しにつながる。正面切って譲歩すれば、習近平・国家主席の政権基盤にも影響が出かねず、短時間での合意形成は難しい。
従って大胆に予測すれば、市場が期待するように6月に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に合わせた米中首脳会談で、米中通商交渉が最終合意に達する可能性はかなり小さい。
また、米国は中国の弱点を見抜いた可能性がある。一つは半導体内製率の低さであり、もう一つは過剰債務体質だ。
ファーウェイが今回の大統領令で生産体制に支障をきたせば、ZTEに対する米国企業との取引停止という制裁措置(北朝鮮、イランに対する禁輸措置違反)で、半導体不足による生産停止に陥ったことと合わせ、半導体の内製比率の低さが、中国経済の脆弱(ぜいじゃく)性の象徴であると印象付けるだろう。
米国からの半導体輸出が全面的にストップしたり、同盟国である日本などに同様の対応を求めてきた場合、中国経済の受ける打撃はかなりの規模になる可能性があるだけでなく、世界経済にも予想外のインパクトが出てくることになりかねない。
また、2018年に米国が対中関税を10%に引き上げた際、中国経済への影響は軽微と多くのエコノミストが予想していたが、その後景気のスローダウンが表面化。背景には、過剰債務の下で、需要減少に対し、許容度が低下していた可能性がある。
直近の中国の4月鉱工業生産や4月小売売上高は市場の予想を下回って、伸びが鈍化した。米中の戦略対立は、さらに厳しさを増す可能性があり、通商交渉だけが短期間に決着するという期待感は、急速に後退している。
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【プロフィル】田巻一彦
たまき・かずひこ ロイターニュースエディター。慶大卒。毎日新聞経済部を経てロイター副編集長、コラムニストからニュースエディター。東京都出身。