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人材育成に注力、採用倍率20倍を実現 三和建設・森本尚孝社長

 人手不足が深刻化し、採用に苦しむ企業が多い建設業界で、今春入社の新卒学生の採用倍率が約20倍に上った中小ゼネコンがある。大阪市に本社を構え、「つくるひとをつくる」を経営理念に掲げる三和建設だ。100人規模の企業にしては珍しく、社員の学ぶ場として「社内大学」を整備するなど人材育成全般に力を入れている。森本尚孝社長に狙いを聞いた。

接点増やす出張講義

 --新卒学生の就職戦線は近年、空前の「売り手市場」だが、学生の人気と採用倍率を高めるためにどのような工夫をしているのか

 「採用倍率が高いのは、学生との接点を増やし、当社を選んでもらうための情報を提供する努力を続けているからだ。例えば近年は、私自身が大学に出かけ、建築系の学科で出張講義をする取り組みをしている。これまでに神戸大や奈良女子大、京都精華大などに赴いた。講義は企業PRではなく、あくまで建設業界やゼネコンでの働きがいを解説する内容にしている。最近は建設業界で働くことにネガティブなイメージを持つ学生が多い。まずは就職の選択肢として建設業への関心を高めてもらい、その中で少しでも当社の存在を意識してもらえれば、おのずと就職希望者の母集団形成につながるという考えだ」

 --採用選考のプロセスについても、1人の選考に140時間をかけ、面接は社長による1回のみというのはユニークだ。

 「昨今、内定辞退はどの企業も悩みの種だ。これを防ぐには選考過程での学生との関わり方が重要になる。中途採用でも同じだが、採用に当たっては当社の経営理念や組織文化とマッチし、入社後も活躍できると確信した人材だけを採りたい。学生には、選考を通じて自分自身の職業観と徹底的に向き合ってもらい、少しでもミスマッチを感じるなら遠慮なく抜けてもらってよいと伝えている」

勝つための環境整備

 --社内大学を整備したり、新入社員専用の寮を建設したりという取り組みもしている。そこまで人材育成にこだわるのはなぜか

 「大手ゼネコンとの厳しい競争にさらされている都市部の中小ゼネコンにとって、自前で人材を育成できるかどうかは死活問題だ。特に食品工場やマンションといった民間建築の設計施工を強みとしている当社は、公共工事のように発注者の注文を忠実に再現する仕事は求められていない。顧客の多種多様なニーズに応えつつ、常に期待を上回るアイデアや新しさを提供し続けなければ生き残れない。そのための技術やノウハウは一朝一夕には身に付かないのが現実だ。競争に勝つためには、社員が能力を十分に発揮できる環境を整備しなければならない。今年9月には企業集合型の保育園を開設する。育児休暇を取得した女性社員の職場復帰を手助けする狙いがある。人材育成は経営の最優先課題だ」

 --2022年には創業75周年を迎える。今後どのような企業を目指していくのか

 「創業100年を無事に迎えるためにも、採用人数を少しずつ増やし、数年後には従業員数を150人規模にしたい。それと、事業分野を広げるのではなく、得意分野である食品工場と倉庫、マンションの3つの分野で国内ナンバーワンのサプライヤーを目指していく。危険物などを対象にした倉庫はニッチな分野だが、ニーズは高い。特定分野のトップカンパニーになることで他社との差別化を図り、顧客に選ばれ続ける存在になっていきたい」(林佳代子)

【プロフィル】森本尚孝

 もりもと・ひさのり 大阪大大学院工学研究科修士課程修了。1級建築士。鹿島建設で勤務した後、2001年に三和建設に入社。08年に4代目社長に就任した。47歳。京都市出身。

【会社概要】三和建設

 ▽本社=大阪市淀川区木川西2-2-5

 ▽設立=1947年5月21日

 ▽資本金=1億円

 ▽従業員=139人

 ▽事業内容=工場や倉庫を中心とする建築設計、施工、開発、コンサルティング。他に不動産の賃貸、売買、保守管理など。