プロジェクト最前線

やりがい、社会課題解決を両立 一般社団法人PLAYERS 「&HAND」

 仕事の専門知識やスキルを生かした社会貢献活動「プロボノ」が、新たなビジネスの可能性を生み出している。一般社団法人PLAYERSは、身体・精神的な不安や困難を抱えた人と、手助けをしたい人をマッチングするサービス「&HAND(アンドハンド)」を開発。大手企業との連携により、やりがいと社会課題解決の両立を目指して活動している。

視覚障害者や車椅子の利用者らを招いて実施されたワークショップ
&HANDのサービスを構成するキーホルダー型の電波送受信機
PLAYERS主宰の瀧澤啓太さん
発信器を内蔵したVIBLO by &HAND

きっかけは「妊婦」

 PLAYERS主宰の瀧澤啓太さん(40)は、広告代理店に勤めながら社会課題の解決に取り組んでいる。&HANDに取り組むきっかけとなったのは約10年前、マタニティーマークとの“出会い”だ。

 瀧澤さんが1人目の子供を妊娠した妻に付き添い、電車を乗り継いで通院した帰りのこと。帰宅ラッシュの車内で、妻を座らせたいと考えた。「そのとき、当たり前のように席を譲ってくれたサラリーマンを見て、『格好いい』と思った。自分はこれまでにマタニティーマークを付けた人に席を譲っていなかったから」(瀧澤さん)

 約3年前には、マタニティーマークの認知度の低さを知った。インターネットで検索すると、マタニティーマークを付けている妊婦が嫌がらせを受けてしまう可能性がある、という指摘が多かったためだ。本来、妊婦に配慮するためにつくられたはずのマタニティーマークが、その役割を担っていなかった。

 「電車やバスで席に座ると、多くの人がスマートフォンに夢中になり、妊婦の存在に気づかない。ただ、きっかけさえあれば、席を譲ろうと考える人は多いはずだ」(瀧澤さん)

 瀧沢さんはPLAYERSで、「座りたい」と「譲ります」をつなげる仕組み「スマート・マテニティマーク」を考案した。2016年夏には、グーグルが主催したコンテストでグランプリを受賞。17年2月には試作品を完成させた。妊婦が、キーホルダー型のデバイス(電波送受信機)のスイッチを入れると、事前にアプリをインストールした乗客のスマホに通知が届く。乗客は妊婦の存在に気づき、席を譲る。スマホ画面から目を離さない現状を逆手に取り、両者をマッチングするユニークなアイデアだった。

 なぜ、PLAYERSは短期間で試作品を完成できたのか。

 瀧澤さんは「プロボノだけでは事業化は難しい」と考えた。そこで、会員制交流サイト(SNS)を通じて協力を呼び掛けたところ、大企業の会社員らが個人の立場でワークショップに参加してくれた。集まった仲間は、自分の会社でアイデアを披露し、大企業をプロジェクトに巻き込むことに成功した。

 一方で、事業の課題も浮き彫りになった。(1)妊婦、支援者がともに専用アプリをダウンロードする必要がある(2)東京圏の出生数が約29万人であることを考慮すると、マネタライズが難しいこと-だ。

「LINE」を活用

 そこで、既に社会インフラとなっている無料通信アプリ「LINE」を活用した&HANDの仕組みを考えた。17年12月、東京メトロ、DNP、LINEと共同で実施した地下鉄・銀座線での妊婦向けの実証実験では、LINEの友達登録者数が1万1415人に上り、実際に参加した支援者数は約270人。席を譲られた妊婦の割合は87%に達した。中には、デバイスを持っていない妊婦を探して席を譲った人もおり、「この仕掛けがなくても、自然と手助けができるんだと感動した」(瀧澤さん)。

 最近、メディアに取り上げられるケースが増えたこともあり、視覚や聴覚などの障害のある人から「メンバーになりたい」という相談が増えている。「助ける側として協力したい」という彼らの思いに、瀧澤さんはこれまでの活動に自信を深めている。

 米国発祥の考え方のプロボノをめぐっては、10年ごろから日本でも知られるようになった。「ビジネス以外の場で職能経験を積むことができる」(東京都内の人材サービス会社)ため、社員の人材育成として注目されたこともあった。

 PLAYERSのケースは、「大企業と協業して社会的課題を解決する」というロールモデルとなったが、本業の忙しさを抱えた個人にとっては負担も大きかったようだ。瀧澤さんは「みんな忙しく、リソースも限られている。何を捨てて何に注力するかを常に考えた」と振り返る。

 ビジョンとして社会的課題の解決を掲げる大企業は多いが、収益追求の建前もあって組織となると動きが鈍くなってしまう。プロボノの新しい役割が浸透すれば、日本社会に活気が出てくるはずだ。(鈴木正行)

 ≪焦点≫

 ■技術で点字ブロックをアップデート

 PLAYERSは、日本で生まれ国際規格となった点字ブロックに着目し、「&HAND」の新たな展開に乗り出す。

 視覚障害者の外出支援のインフラとして定着している点字ブロック。しかし、視覚障害者からは「点字ブロックだけでは目的地にたどり着けない」「自転車などで点字ブロックが遮られている」などの声があり、社会インフラとして十分に機能できていない面もある。

 新しい仕組み「VIBLO(ヴィブロ) by &HAND」は、発信器を内蔵した点字ブロック、スマートスピーカー、ワイヤレスイヤホンなどを活用し、視覚障害者の移動を「声」で支援する。

 利用者がスマートスピーカーで目的地を設定すると、ルート上にあるVIBLOブロックが設定される。ブロックに近づくと、「ここは○○駅の出口です」「交通量の多い信号です。お気をつけください」などの情報を音声で案内する。

 PLAYERSは、VIBLOを来年の東京五輪・パラリンピックや25年大阪万博で活用したいと考えている。3月には、JR西日本が23年春に開業予定の「(仮称)うめきた(大阪)地下駅」のサービスアイデア公募で、VIBLOが優秀賞に選ばれ、これから実証実験が始まる。将来的には視覚障害者がVIBLOを活用して、駅構内に不慣れな訪日外国人らを手助けする、といったサービスにつなげたい考えだ。

 瀧澤啓太さんは「&HANDのビジョン、やさしさからやさしさが生まれる社会の実現に向け、活動していきたい」と話している。

 ■一般社団法人PLAYERS

 【設立】2017年11月

 【代表理事】池之上智子

 【目的】社会のさまざまな問題に対し、問題解決ならびに価値創出を行い、より良い社会の形成に寄与する