社員の団結と士気向上を促す簡単な手法
多くの経営者は「社員の団結」「社員の士気向上」という共通の課題を抱えている。若い世代が「残業したくない」「上司と飲みたくない」「出世したくない」などと言うから、なおさらだ。(レヴィング・パートナー代表取締役 寺嶋直史)
そこで、この課題を解決する簡単な手法を教えよう。それは「1対1のコミュニケーション」と「ブランド・アイデンティティー(BI)のビジョン化」だ。大きな効果が得られ、即効性や持続性もある「マジック」のような施策になるだろう。
まず「1対1のコミュニケーション」は、社長が個々の社員と1対1で話をすることだ。その即効性と効果は極めて高い。社長は社員全体に向けて情報を発信するものの、一人一人と話をすることは少ない。だから、社員に伝わらない。社員一人一人と面と向かって話をし、相手の思いや考えなどを聞いて共感しつつ、社長の考えを伝えるのだ。
人間は誰しも「承認欲求」があり、人から認められたいと思っている。企業で言えば、社員が最も認められたいのは社長だ。社員は、社長から声を掛けられ、話をするだけで、「自分のことを気にかけてくれている」と感じてやる気になる。
次に「BIのビジョン化」。BIとは「顧客にどう思われたいか」を端的に表したフレーズで、ブランディングの世界でキーワードになるものだ。
また「ビジョン」は経営の指針の一つで、社員全員に目指すべきゴールを示す。ゴールを明確にすることで、全社員のベクトルが一致して組織の団結につながり、社員の士気も向上する。しかしビジョンの構築は、従来の事業活動を継続するだけでは描きにくいため、容易ではない。食品スーパーの社長に5年後のビジョンを聞いても「今と同じことをやっているよ」という返事が返ってきてしまう。
そこで、BIをビジョンに設定する。例えば、食品スーパーのBIを「他にはないバラエティー豊かな商品と、分かりやすく楽しいPOP(購買意欲促進広告)で、ショッピングのワクワク感を提供するスーパー」にしたとする。すると社員は皆「他社にないワクワクする商品を何にするか」などと考えるようになり、BIをゴールとして目指すようになる。
つまりBIをビジョン化すれば、社員に浸透しやすい。社員全員がBIを目指すことでベクトルは一致し、自然と社員が団結する。さらに、社員自らが顧客の立場でいろいろと考えるようになり、士気は向上し、自立した社員が生まれ、強力な集団になるのだ。
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【プロフィル】寺嶋直史
てらじま・なおし 摂南大工卒。1992年東芝入社。2010年3月、レヴィング・パートナーを設立し現職。事業再生コンサルを行う傍ら、「経営コンサルタント養成塾」の塾長として財務分析、経営改善、事業計画、金融機関対応、マーケティング・ブランディングなどを講義。著書に「事業デューデリジェンスの実務入門」など。50歳。大阪府出身。