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Jリーグ、「神戸方式」は確かに収益を拡大する

佐野慎輔

 使い慣れた表現でいえば「長いトンネルを抜けた」ということか。この26日のサッカーJリーグ、ヴィッセル神戸は湘南ベルマーレを4対1で下し、連敗を7で止めた。「長かったぁ」と選手たちが安堵(あんど)の表情を浮かべれば、サポーターも久しぶりの勝利に歓声を上げた。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

湘南に勝利し連敗を7で止めた神戸はサポーターの声援に笑顔で応えた=26日、ノエビアスタジアム神戸

 世界的選手を獲得

 その3日前、Jリーグは恒例となっている前年度の経営情報を開示した。3月期決算の湘南やジュビロ磐田など4クラブを除いた50クラブの状況が発表され、神戸躍進が注目された。

 何と売上高に相当する営業収益が2017年度から44億2900万円も増えて96億6600万円を計上。浦和レッズが17年度に記録した79億7100万円を大きく上回るJリーグ史上最高収益となった。

 なぜ、神戸は一気に収益を増やせたのか?

 収益をもう少し細かくみると、スポンサー収入が62億800万円で前年度から28億5600万円も増えた。入場料収入も3億2600万円増の8億4000万円。最終利益は10億5200万円を確保した。

 17年7月に元ドイツ代表FWのルーカス・ポドルスキ、18年5月にはFCバルセロナから現スペイン代表MFで「手品師」の異名をとるアンドレス・イニエスタなど世界的なスター選手を獲得。彼らの加入が神戸人気を押し上げ、サポーター以外の集客があったことはいうまでもない。

 さらに今シーズンは、今回の営業収益には影響していないものの、ニューヨーク・シティーFCから元スペイン代表FWのダビド・ビジャ選手が入団。戦力アップとともに、持つ圧倒的な集客力はさらなる営業収益増への期待が膨らむ。

 もちろん、そうなると気にかかるのは人件費だが、こちらも13億7300万円増の44億7700万円と記録的な数字となった。ちなみにイニエスタ選手は途中からの加入となるので半分しか計上されておらず、ビジャ選手も来年回し。となると、来年度の人件費はもっと増えることになる。

 親会社の状況次第

 こうした大型補強を可能にしたのは、親会社楽天の好調な経営状態である。2月に発表された18年12月期の売上高は1兆1014億円とついに1兆円企業の仲間入り。営業利益も1704億円と過去最高を記録、その豊かな資金力を背景に世界戦略を進める三木谷浩史会長兼社長はスポーツの活用に着目している。

 FCバルセロナと4年間のスポンサー契約、米プロバスケットボール協会(NBA)のゴールデンステート・ウォリアーズともスポンサー契約を結んだ。神戸への資金投入はプロ野球の楽天ゴールデンイーグルスとともに足元を固める狙いといっていい。

 目下、神戸の監督として、プレミアリーグの名門アーセナルを22年間率いたアーセン・ベンゲル元監督を招聘(しょうへい)する動きもあると聞く。かつて名古屋グランパスを日本一に導き、日本代表監督に擬せられた名将を招くことができれば低迷するチーム力を押し上げることができるかもしれない。

 もちろん人件費はさらに膨らむが、その分、スポンサー収入(といっても大半は楽天からだが)、入場料収入の大幅増も期待できよう。ちなみに、これまでJリーグのクラブ経営をリードしてきた浦和レッズは営業収益が75億4900万円、人件費31億1080万円。いずれも前年度より数字を伸ばしながら、2位にとどまった。神戸の急激な成長ぶりが分かる。

 ただ、赤字にあえぐクラブは13から17に増えた。地域密着を目指すJリーグも親会社次第という現実が横たわる。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。