レクサスの究極のハイスペック・スポーツクーペ「RC F」が、マイナーチェンジを経てさらなる進化を遂げたという。しかも今回新たに、専用装備でスパルタンに仕上げた高性能バージョン「パフォーマンス・パッケージ」をラインアップに追加する力の入れようだ。そうともなれば「その限界性能を確かめるのに最もふさわしい場所はサーキットしかない」と腕を撫して富士スピードウェイに乗り込んだ筆者だったが、果たして結果は…。(文・大竹信生/SankeiBiz編集部)
朝6時台の新幹線で東京駅を出発し、三島駅からタクシーで走ること約1時間。山の麓に富士スピードウェイのグランドスタンドが見えてきた。ここで走るのは、レクサスのレーシングカー「RC F GTコンセプト」を豪雨の中でドライブして以来、1年半ぶりとなる。ステアリングを握る前からテンションは上がりっぱなしだ。
レクサスの「F」とは?
ピットレーンにはフェイスリフトを受けて、より端正になったRC Fがずらりと並んでいる。実はここ富士スピードウェイはRC Fにとって“生まれ故郷”とも言うべき特別な場所だ。その点について少し説明をすると、RC Fはスポーティークーペ「RC」をベースに設計された高性能マシンであり、「F」とはレクサスがレースカーの開発拠点とする富士スピードウェイの頭文字。車名に「F」の冠が与えられたモデルはFシリーズと呼ばれ、サーキットで培った高度技術がびっしりと詰め込まれていることを意味する。Fシリーズのマシンは「公道からサーキットまでシームレスに本格的な走りを楽しめる」という開発テーマのもとに設計されているのだ。
車種によってはスポーティーに味付けした「Fスポーツ」というグレードも存在するのだが、現在のラインアップで純粋な「F」の称号が与えられている最高峰モデルはRC FとセダンベースのGS Fの2車種のみ。2ドアクーペのRC Fはレクサスにとって唯一の本格スポーツカーなのだ。
そんなFシリーズの急先鋒に立つRC Fだが、2014年の発売後に富士でサーキット試乗したときは、車両重量1800kgオーバーという重さが気になった。実際に当時の感想として僭越ながらこう記していた。
「直線の加速力には圧倒されたが、急ブレーキ後のターンインでアクセルを踏み込むと、一瞬もたついて曲がりたがらない印象を受けた。車重が影響しているのは明らかだった」
誕生から5年目を迎えたRC Fは、今回の小改良で従来型比20 kgの軽量化を果たしたという。さらに、Fシリーズの決定版とも呼べるパフォーマンス・パッケージに至っては、従来型比70 kgもの減量を実現しているそうだ。筆者が今回のサーキット試乗で最も興味があったのは、この「ダイエット効果」なのだ。
凄まじい動力性能
この日の気温は約30度のドライコンディション。ヘルメットを着用してパフォーマンス・パッケージに乗り込んだ。このモデルはサーキット走行を最優先に開発したスパルタンなグレード。徹底的に軽量化にこだわり、エンジンフードやルーフ、フロントスポイラーや大型リヤウイングにCFRP素材を用いた専用装備を採用。カーボンセラミックブレーキやチタンマフラーも装着するなど1720 kgまで絞り込んだボディに、354kW(481PS)までパワーアップさせた大排気量の5リッターV8自然吸気(NA)エンジンを搭載したモンスターマシンだ。
加速感はロケットも斯くや、と思わせるほど強烈。タコメーターは一気に5000⇒6000⇒7000回転と吹け上がる。大排気量NAでしか味わうことのできないリニアな伸び感は病みつきになるほど気持ちがいい。約1.5 kmの超ロングストレートへとつながる最終コーナーでは、アウト側の縁石まで膨らみながらカーブを立ち上がる。ここから第1コーナーのブレーキングポイントまでスロットルは全開状態だ。コックピットに「ブワーン!!」と鳴り響く激しいエンジン音とシンクロしながら、スピードメーターの針がぐいぐいと盛り上がる。硬い足回りとステアリングからは路面の凹凸などドライバーが必要とする情報が細かく伝わってくる。ふとピットレーンに目をやると、こちらを見つめるレクサスのスタッフ陣があっという間に視界から消えるほどの圧倒的なスピード感だが、挙動は非常に安定しており恐怖感は全くない。「もうここでブレーキングしないとオーバーランする!」というギリギリのポイントまで粘ると、時速は240 km/hまで達していた(過去にレクサスLFAに乗ったときは同じポイントで265 km/hを計測)。第1コーナーで一気に65km/hまで減速させるが、再びスロットルを開ければすぐさま時速200km/hを超える。この圧倒的な加速性能は最終減速比を従来型の2.937から3.133にローギヤ化したことが大きく貢献しているそうだ(※タイヤを1回転させるためにプロペラシャフトが3.133回転するという意味)。
カーブでは後輪駆動(FR)の特性を生かして鋭く滑らかにイン側へ切り込んでいく。コーナリング中に速度を上げても、カーブの途中でタイトさが増した時にさらに舵角を与えても、姿勢を崩すことなく狙ったラインでコーナーを駆け抜ける。従来モデルよりも明らかに旋回性能の向上が感じられるし、限界に近付いたときは挙動の様子やタイヤの“悲鳴”から「そろそろ危ないかな」と感じ取りやすくなったことも大きなメリットだ。
軽量化がもたらす操作性の向上はあらゆる状況においてはっきりと表れた。直線での加速力や伸び感はもちろん、ハードブレーキング時でも次の動きに影響するようなもたつきはないし、旋回中のロール姿勢もかなり安定している。アンダーステア(アウト側に引っ張られるネガティブな挙動)も軽減されているので、速度を維持したまま積極的にイン側へ攻めることが可能なのだ。ハンドル操作とは別に、アクセルのオン・オフ加減で瞬間的に旋回コントロールができるのも軽量化による恩恵だ。縦の動きも横の動きも軽量化のおかげでレスポンスが早いのだ。富士は超高速ストレート、高速ターンから超低速コーナーまで変化に富んでおり、おまけにプロでも「ライン取りが難しい」と口を揃えるほどのクセ者サーキット。まさに開発拠点としても最適なタフなコースにおいて、一般ドライバーの筆者でもRC Fの「ダイエット効果」をはっきりと感じることができたのだ。
軽量化だけにあらず
RC Fの進化は軽量化だけにとどまらず、パワートレーンの強化や空力パーツの最適化によるエアロダイナミクスの改善、ミシュランと共同開発した専用スポーツタイヤの採用など、マイナーチェンジという言葉の枠を超えた大規模な商品改良が、総合性能の向上に大きく貢献している。個人的には従来モデルに見られた唐突なブレーキング感覚が消えたことも好印象だった。カーボンセラミックブレーキの圧倒的な制動力は、同時にスムーズな減速フィールも実現している。ピット帰還時に「キーキー」と“鳴き声”が聞こえたのも、カーボンセラミックブレーキの特徴だ。
今回の試乗は3周を4スティント走る形式(計12周)で行われたのだが、寝不足のくせ調子に乗って攻め過ぎたためか、はたまたRC Fパフォーマンス・パッケージの圧倒的な走行性能に体が“オーバーヒート”したのか、後半は恥ずかしながらペースを落としながらの走行に徹してしまった。強烈で非日常的な加速Gに頭がくらくらとしてしまったのだ。RC Fの限界性能を自ら確かめるために乗り込んだ富士の舞台だったが、先に“限界”を迎えたのは情けないことに筆者のほうだったのだ…。
週末にサーキット走行を楽しむアマチュアのジェントルマンドライバー(多くはビジネスで成功した富裕層)は体のほうも相当タフなのだろう。そして、高性能レーシングカーで何時間も超高速バトルを繰り広げるスーパーGTのプロドライバーたちはとんでもない“化け物”なのだということを痛感した一日だったのだ。
《ヒトコト言わせて!》
今回はレクサス代表の澤良宏プレジデントにサーキットで直接お話を伺う機会があったので、RC Fの魅力を語ってもらいました。
澤プレジデント「RC Fはリアルスポーツのオーラを纏ったクーペです。電動化が叫ばれる時代に『NAが持っているセンセーションを忘れたくない』というメッセージに応えてくれるクルマだと思います。それは、クルマ好きがけっして忘れることのないピュアNAの世界です。EVにできることもありますが、EVにできない世界がNAにはあります」
■主なスペック(レクサスRC F パフォーマンス・パッケージ)
全長×全幅×全高:4710×1845×1390ミリ
ホイールベース:2730ミリ
車両重量:1720キロ
エンジン:V型8気筒
総排気量:5.0リットル
最高出力354kW(481PS)/7100rpm
最大トルク535Nm(54.6kgfm)/4800rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:FR
タイヤサイズ:255/35ZR19、275/35ZR19
定員:4名
燃料消費率(WLTCモード):8.5キロ/リットル
車両本体価格:1404万円(税込み)
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