ビジネス解読

4強を脅かすマイクロソフトの逆襲 5G覇権巡り“クラウドの戦い”激化

 グーグル、アマゾン・コムなど「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業に対し、影が薄くなっていたマイクロソフトの存在感が再び高まってきた。基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」でパソコン市場に覇権を築いていたがゆえにスマートフォンの登場以降の環境変化につまずいたが、インターネット上で提供する企業向けサービス事業で復権。第5世代(5G)移動通信システムが開くIT新時代へ攻勢を強めている。

 「クラウド」舞台に

 “パソコン時代の巨人”が、アマゾンなどスマホ時代の寵児「GAFA(ガーファ)」への巻き返しの舞台に定めたのが、インターネットを通じてデータ管理やソフトウエアの機能を提供する「クラウド(雲)」というサービス事業だ。

 ネット利用の拡大によるデータ量の増大や、個別に情報システムを維持管理することなく、必要なコンピューター機能のみを使える利便性とコストメリットを背景にクラウドは世界的に急成長。調査会社のカナリスによると、クラウドのインフラサービスの2018年の市場規模は前年比46%増の約800億ドル(約9兆円)で、20年には1430億ドルまで拡大する見通し。各種サービスを含めた19年のクラウド市場全体は、IT調査の米ガートナーが17・5%増の2143億ドルと予測する。

 この巨大な高成長市場のトップに君臨するのがGAFAの一角、アマゾン。その牙城にマイクロソフトはひたひたと迫っている。

 電子商取引(EC)を駆使するアマゾンは、ネット利用の巧みさなどから、これまでクラウドで独走してきた。18年の実績(カナリス調査)でも前年比47%増でシェア約32%とトップを維持した。だが、マイクロソフトは、アマゾンを大きく上回る82%増の伸び率でシェアを約17%に拡大。ここ数年でアマゾンとの差を着実に詰め、「2強」といえる状況に持ち込んでいる。

 市場の伸びを上回る成長率を続けるアマゾンの牙城は簡単には崩れそうにないが、ウィンドウズ環境で数々の情報システムを構築してきた実績やシステム事業での多くの提携パートナーは、アマゾンを脅かすマイクロソフトの強みだ。

 VWと「コネクテッドカー」

 さらに注目したいのは、マイクロソフトが自動運転やコネクテッドカー(つながる車)といった自動車分野への足場を急ピッチで築き始めていることだ。

 独フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース最高経営責任者は2月末、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOとそろって会見し、VWが20年に発売する予定の電気自動車「ID.シリーズ」から、マイクロソフトのクラウド技術でコネクテッドカーサービスを提供すると発表。3月には仏ルノー、日産自動車、三菱自動車の3社連合も、コネクテッドカーのデータ解析にマイクロソフトのクラウド技術の採用を決めた。3社連合はコネクテッドカーの車載システムでグーグルと提携していたが、マイクロソフトは世界販売トップ3のうち2つの自動車グループを自陣に引き込んだ形だ。

 マイクロソフトは続く4月も、独BMWとの提携関係を強化。クラウド技術による自動運転輸送システムや次世代の「スマート工場」の構築に共同で取り組むことで合意し、矢継ぎ早に布石を打っている。

 主役になる可能性

 巨大な自動車産業の市場影響力は言うまでもないが、より重要なのは自動車が5Gとモノのインターネット(IoT)化による「第4次産業革命」の“本丸”だという点だ。

 5Gは現在の100倍の超高速、多数同時接続、超低遅延の通信環境を実現する。その特徴は瞬時の操作が必須の自動運転、さまざまな機器やロボットをネットワーク化して遠隔管理するスマート工場、人工知能(AI)を使った膨大なデータの分析といった産業モデルの革新につながり、暮らしを大きく変えていく。

 一方で、5Gの超低遅延を最大限に生かすデータ処理には、遠方のデータセンターではなく、より利用者に近いネットワークの「雲の端(エッジ)」でサービスを提供する「エッジ・コンピューティング」という新たな仕組みが求められるという。こうした産業革新とエッジ対応というクラウドの転機で優位に立てば、5G時代のITの主役になれる可能性があるわけだ。

 クラウド市場では、中国のアリババも世界展開を加速。AI半導体の開発会社も新設し、シェア拡大を虎視眈々と狙っている。

 マイクロソフトが再びITの巨人としてGAFAを切り崩すのか、中国アリババが米国勢の市場支配に風穴を開けるのか。5G時代の到来で“雲の戦い”は新たな局面に入る。

【GAFA】

 インターネット上で大規模なサービスを提供する「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業の代表格4社。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コムの頭文字を取った総称。