「スープラのDNAは直列6気筒プラスFR駆動にあるんです」-。開発担当者がそう口にしていた。それだけに、てっきり6発だけのラインアップかと信じて疑わずにいたら、実際には直列4気筒も選べるのだそうだ。
いま自動車業界を賑わせているホットなニューカマー「新型スープラ」は、最強グレードの「RZ」こそ、BMW製の340馬力直列6気筒3リッターターボを搭載するものの、「SZ-R」は直列4気筒2リッターターボであり、廉価版ともいえる「SZ」にも、直列4気筒2リッターターボが与えられている。3グレードのうち2グレードが直列4気筒搭載モデルなのである。
ちなみに、SZ-Rの最高出力が254馬力なのに対してSZが197馬力なのは、ブースト圧を下げるなどのコンピューター制御の違いである。ユニット本体には違いがない(これもBMWが得意とする手法だ)。
そう、スープラのヘリテージは直列6気筒にあると宣伝していても、直列4気筒もラインアップしていることを確認しておきたい。
捨てがたい魅力
そしてまた、直列6気筒でなければスープラであらずと感じざるを得ないプローモーションによって、直列6気筒の影の存在に追いやられてた感の残るこの直列4気筒モデルも、実は捨てがたい魅力を備えていることも真実。あるいはこっちが本命かとも思える。
スープラの最大の武器は、BMW譲りのディメンションにある。たとえばライトウエイトFRスポーツの雄である「86」が4シーターが基本なのに対してスープラは、2シーターと割り切っている。前席しか人は乗れないのだ。それによって、前輪と後輪の車軸間の距離を切り詰めることに成功した。それでいて、左右の幅は、大きく足を広げて大地に踏ん張るかのような安定感がある。前後に短く左右に広い。すなわち、コーナーでのシャープなハンドリングが期待できるのだ。
さらには、重心が低い。実際に着座してみると、ヒップポイントが大地に擦れんばかりの錯覚に陥る。標準的な体型である僕でさえ、シートを最下点にアジャストしてしまうと、ほとんど前が見えないというほど低い。
そんなだから、スープラがもっとも光り輝くのは、ワインディングだと思う。次々と連続するタイトコーナーをダンスを踊るように身を翻して舞う。前後左右に姿勢を傾けながらコーナーに挑めば、スポーツドライビングの醍醐味が味わえるというわけだ。
「SZ」は86の“弟分”
そう、スープラは直列6気筒をイメージリーダーに据え、すべての仕様がターボで武装する。しかもデザイン的にマッチョだ。それによって86よりも車格感が高い兄貴的なイメージが強い。だが実際には86よりコンパクトでショートホイールベースである。SZなどは86よりも出力が抑えられている。こう言って良ければ86の弟分的な性格でもあるのだ。そう思って接してみると、あるいは廉価版と思っていたSZこそ本命なのではないかと浮きだってくるのだ。
さらにそれを裏付けるのは、SZの前後重量配分がもっとも理想に近いことである。車検証に記載の数値で比較すると、ハイパワーの直列6気筒ターボ搭載車RZは、前780kgなのにたいして後は740kg。ハイパワー2リッターのSZ-Rは前730kgで後720kg。一方のローパワーターボのSZは前710kgで後700kg。
順番に前後重量配分比を並べれば、51.3%、50.7%、50.3%となる。SZの車両重量はそもそも軽いうえに、前後重量配分は、コーナリングマシンとして理想的な前50%:後50%に近い。BMWを走りのブランドに押し上げてきた基本思想をもっとも受け継いでいるのがSZだと言えるのである。
実際に、走りは素直である。17インチタイヤを履いていることでややルーズなフィーリングは否めないが、RZやSZ-Rと違ってシンプルなパーツで構成されているために走りは素直なのだ。それでいて価格もギリギリ500万円を下回る。RZは690万円だから、これはもうプレミアムゾーンに組み入れてもいい価格帯であることを考えればお得感があるのだ。
「SZ」こそ、本当のスープラのような気がしてきた…。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。