高論卓説

中国企業のリーダーシップに変化 組織力が向上、トップダウンから調和型へ

 日本のみならず、中国各都市で、リーダーシップ実践力を高める能力開発プログラムを実施している。プログラムの75%を、個人での話法検討、ペアでのビデオロープレ、グループ検討などの演習が占める。演習結果からスキルレベル、成長性、能動性、理解力、実践力などを数値化して、その数値を高めていく。さまざまな業界の各層の中国ビジネスパーソンは、日本に比べて、予想通り、成長性、能動性が一段と高い。演習プログラムのマッチング度合が高いように見受けられる。(山口博)

 プログラムでは、モチベーションファクター(意欲が高まる要素)を測定する。私はモチベーションファクターを目標達成、自律裁量、地位権限、他者協調、安定保障、公私調和の6つに分類している。前三者を牽引(けんいん)志向、後三者を調和志向と称している。

 日本のメディアは、肉食系と草食系、狩猟型と農耕型などと名付けてくれたが、中国では狼型と羊型と同時通訳が訳してくれている。言い方はいずれであっても、人それぞれでモチベーションファクターは異なる。

 自分のモチベーションファクターが分かれば、自分のモチベーションを上げやすいし、パフォーマンスを高めやすい。相手のモチベーションファクターが分かれば、相手のモチベーションを向上させてあげることができるし、相手を巻き込みやすく、チームとしての成果を上げやすくなる。

 私がモチベーションファクターを2つの志向、6つのファクターに分類しているのは、そのように分けると、日本のビジネスパーソンはだいたい均等に分布されるからだ。牽引志向は51%、調和志向は49%だ。

 中国のビジネスパーソンのモチベーションファクターを調べて、おもしろいことが分かった。演習での成長性、能動性が高いことから、また、日頃接する中国の人々の言動から、牽引志向が極めて高いという仮説を持っていたが、外れた。牽引志向60%、調和志向40%なのだ。日本の企業でも、広告代理店A社は68%対32%、製薬会社B社研究部門は65%対35%なので中国の牽引志向が突出しているというわけではない。IT業界平均でみると、日本は64%対36%だが、中国では65%対35%なので大差はない。

 さらに興味深いことに、6つのモチベーションファクターで見ると、中国と日本で、目標達成は25%対20%、地位権限は20%対14%と中国が高いのだが、それらだけでなく、公私調和までもが、19%対18%と中国が高いのだ。一方、自律裁量は、15%対17%、他者協調は15%対21%、安定保障は6%対9%で日本の方が高い。

 中国における急速な経済成長とグローバル化を、目標達成と地位権限のモチベーションファクターの持ち主が支える中、儒教の教え、一人っ子政策が公私調和のモチベーションファクターを維持しているように思える。

 中国企業の急成長と大量採用、大量脱落の悪循環が取り沙汰されることが多いが、その典型と思われているIT企業が所属する中国版シリコンバレー、中関村で、巻き込み型のリーダーシップ手法が取り入れられたり、私の書籍が翻訳され「如何吸引客戸」として出版されたりすることに注目している。

 トップダウンのマネジメントから、モチベーションファクターを踏まえた巻き込み型のリーダーシップへの転換に日本企業以上に急速にかじを切り替えているのだ。日本企業は、中国企業のリーダーシップ変革に後れをとってはならない。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役、慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。