前回の【乗るログ】は富士スピードウェイを舞台にレクサスのハイパフォーマンス・スポーツクーペ「RC F」に試乗したが、今回はそのベース車両である「RC」を取り上げる。マイナーチェンジを経て何がどう変わったのか-。ガソリン車とハイブリッド車(HV)を試した。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
5月下旬に行われたレクサスRC Fのサーキット試乗会。そこには数台のRCも持ち込まれていた。2014年10月に発売され、昨年末にマイナーチェンジが施された後輪駆動(FR)の2ドアクーペだ。
「9時から12時までの間でしたらRCにお乗りいただけます。どちらのグレードをご希望でしょうか」-。会場に到着すると、レクサス関係者から試乗車の案内があった。RCの現行ラインアップは下記3モデルに大別され、会場にはほぼ全てのモデルとグレードが持ち込まれていた。サーキット走行会が始まるまでの“プチ試乗”だ。
■レクサスRCの現行3モデル
・RC350 [3.5リッターV型6気筒]
・RC300h [2.5リッター直列4気筒+モーター]
・RC300 [2.0リッター直列4気筒ターボ]
まずはガソリンモデルを試乗
時間が限られているため試乗できるのは2モデル。まずはガソリンモデルの「RC350」を選択した。グレードは落ち着いた雰囲気の「バージョンL」とスポーツマインドを注入した「Fスポーツ」の二択から後者をチョイス。ボディカラーはFスポーツ専用色のイエロー(ネープルスイエロー・コントラスト・レイヤリング)だ。
RC350のパワートレーンは、3.5リッターV6エンジン(最大出力318PS/6600rpm、最大トルク38.7kgfm/4800rpm)に8速ATが組み合わされている。さっそくサーキット周辺の一般道で走らせてみると、すぐに胸がすくような走行フィールを実感することができる。V6ガソリンエンジンによる力強く伸びやかなパワーフィールとクリアな高音サウンドは、ドライバーに「回す楽しさ」を与えてくれるし、ハンドルの裏にあるパドルシフトで変速ができる「Mポジション」に切り替えれば「操る楽しさ」も味わえる。ついでにドライブモードセレクターで「スポーツS+」を選べば、スポーティーなハンドリングと、官能的なサウンドを奏でる高回転型の鋭いレスポンスが得られる。それはまるでスペックの異なるクルマに乗り換えたかのような豹変ぶりで、かなりダイナミックな走りを体験できるのだ。個人的にはターボやモーターといった他力を乞わない“自立した力強さ”が非常に魅力的に映った。
ドライブモードについては「スポーツS+」と「ノーマル」の間に「スポーツS」も存在するのだが、個人的には以前から不要だと感じている。恐らく、ともに力強い加速力を発揮する「スポーツS+」と「スポーツS」の大きな違いはステアリングの味付けだけであり、「スポーツS+」を選択するためにダイヤルセレクターを2回もひねる必要があるのであれば、「だったら『スポーツS+』だけで十分じゃない?」という所感だ。
HVの走り味は?
次はHVに試乗する。こちらのグレードも「Fスポーツ」、カラーはホワイト(ノーヴァガラスフレーク)だ。RC350の「力強さ」に対して、HVモデルのRC300hは「スムーズ」な走りが魅力的。2.5リッター直4エンジンとモーターの組み合わせは超低速域から滑らかで、全域において豊かなトルクを発揮する。静粛性もHVに分があるため、高級オーディオシステム「Mark Levinson」(※メーカーオプション)の高音質を堪能することができた。CVTによる加速も連続的でスムーズな加速フィールが味わえる。どうしても燃費に意識が向かいやすいHVだからか、アクセルを操作する右足の動きが自然とジェントル傾向にあった気がする。とはいえ、HVでもアクセルを踏み込めば入念に作り込まれたエンジン音がキャビン内に送り込まれる仕掛けはしっかりと備えており、「音」に耳を傾ける楽しみもちゃんとあるのだ。
RCは今回のマイナーチェンジで空力性能やサスペンションの改良、パワートレーンのチューニングなど走行性能に直結するあらゆる分野で大幅に手を加えているという。空力性能の主な改良点として「サイドウィンドウモールのフィン形状化」「リヤバンパーにダクトを追加してホイールハウス内の圧力変動を軽減」、足回りの改善点として「低速度域から十分な減衰力を発揮するショックアブソーバーや、より高剛性のブッシュを採用」などが挙げられる。
約3時間の試乗で従来型と改良型の違いを明確に挙げるのは難しいが、一般道とサーキット敷地内の道路をひと通り走った個人的な感触として、「全体的に粗さが削り落とされて、さらに洗練された」との印象を持った。もう少し具体的に言えば(1)素直で滑らかなハンドリング(2)重心が左右に移動したときの車体の安定感(3)それらがもたらす乗り心地の向上、の3点だ。従来モデルよりも速度域を問わない忠実なライントレース性とステアリングフィールを見せたし、旋回時も横Gに屈しない姿勢の良さを感じさせた。シートから伝わる乗り味も細かい雑味が取れてまろやかさが増しているように思えた。
外観もブラッシュアップ
デザイン面ではエクステリアの意匠変更が顕著だ。面発光タイプのL字型LEDクリアランスランプをヘッドライトに組み込み、その直下に空気を取り込むスリットを縦方向に配置。何となくフラッグシップクーペの「LC」に寄せたデザインにも見える。丸みを帯びた従来モデルのドアミラーもLCと同様に、エッジの効いたデザインへと変更された。
レクサスに共通するアイコンと言えばスピンドルグリルだ。筆者は過去の記事で「RCのスピンドルグリルは下半分の末広がりが大きくて締まりがない」と記したのだが、どうやらこちらも幅を狭めたように見える。少なくともRC Fのグリルは「皆様のご意見などを参考に幅を狭めました」と森忠雄チーフデザイナーが語っていたので、RCについても同様の処理を施した可能性は高い。
左右のリヤコンビランプも両端を下に向けて落とし、縦に刻まれたエアアウトレットとつなげることで縦方向への動きを出すなど、全体的にLCのデザイン要素をRCにも取り込んでいるとの印象を受けた。世界中で絶賛されたLCの優れたデザイン性を考えると、“いいとこ取り”をしたとすればそれは自然な流れである。個人的にはヘッドランプは従来型、リヤのデザインは改良型が好みだ。
この日はドライブにおあつらえ向きな上天気だったこともあり、高級クーペが醸し出すラグジュアリーな空気とスポーティーな走りを気持ちよく楽しむことができた。全く同じ道を同一時間帯に同じ車種で、しかもパワートレーンのみ取り換えて走る機会はそうそうないだろう。若葉の隙間をくぐり抜けた日差しと陰が鮮やかなコントラストをなす並木道、対向車が全く来ないサーキット敷地内の道路-。同じ場所を繰り返し走れば広がる景色は一緒かもしれないが、それをガソリン車とHVから眺めるのとでは、「音」や「挙動」、「振動」や「加速感」といった五感に訴える刺激的要素は全く違う形で入力される。ドライブ中の風景の見え方やそこから生まれる気持ちの部分に変化をもたらすのだ。
エンジンを回す刺激とパワフルさがダイレクトに伝わるRC350。スムーズな走行フィールが日常のドライブに優雅さをもたらすRC300h。はたまた、普段使いからサーキット走行まで究極の性能を堪能できるRC Fといったように、RC系には様々な選択肢があるが、とりあえず「高級クーペは好きだけど、サーキット走行は別に…」という方にはRCがオススメとなる。
■主なスペック RC350「Fスポーツ」
全長×全幅×全高:4700×1840×1395ミリ
ホイールベース:2730ミリ
車両重量:1700キロ
エンジン:V型6気筒
総排気量:3.5リットル
最高出力:234kW(318ps)/6600rpm
最大トルク:380Nm(38.7kgm)/4800rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:後輪駆動
タイヤサイズ:(前)235/40R19(後)265/35R19
定員:4名
燃料タンク容量:66リットル
燃料消費率(JC08モード):10.2キロ/リットル
車両本体価格:707万円
【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。アーカイブはこちら