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東芝、軽くて曲げられる太陽電池を開発中 透明化で“2階建て”も可能に

 国際的な環境保護の機運が高まる中、需要拡大が見込まれる再生可能エネルギー。東芝が研究開発を進めるのが太陽電池の新技術だ。素材や形状の工夫で設置場所の選択肢を広げたり、発電効率を高める技術で新たな需要を取り込んだりする狙い。昨夏に閣議決定された新たなエネルギー基本計画では、太陽光発電が令和12(2030)年の主力電源の一つに定められており、実用化への期待が高まっている。

東芝が開発を進める透明化した亜酸化銅のセルを使ったタンデム型太陽電池
東芝が大面積化を実現したしなやかさと軽量性を併せ持つフィルム型ペロブスカイト太陽電池

 太陽光発電は、住宅などの屋根や敷地内などに太陽電池を設置して発電する。太陽光を使うことで発電時に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないクリーンさが売りだが、主流となっている結晶シリコン太陽電池は「曲げ」に弱い。このためガラスなどで補強の必要があり、その形状や重量などから設置場所に制約があった。また、天候に左右される性質のほか、コストが課題で主力電源とするには発電効率の一層の向上が求められている。

 東芝が設置場所の拡大を目指し、新エネルギー・産業技術開発機構と取り組んでいるのが、「ペロブスカイト太陽電池」と呼ばれる新技術の太陽電池。ペロブスカイトという結晶が太陽光を吸収して発電する仕組みだが、画期的なのはペロブスカイトがインクのように基盤材料に印刷できる点。このため、フィルムの上に印刷すれば、フィルム状の軽くて曲げられる太陽電池ができる。

 また、従来の結晶シリコン太陽電池はパネル1枚の重量が15~20キロ程度で、柱が少ない建築物などには大量設置が難しい。現状では、一般の住宅の屋根や土地にパネルを敷き詰めるのが主流となっている。ペロブスカイトなら、建物だけでなく電気自動車の天井やテントのような場所にも、太陽電池を塗布することが可能だ。東芝研究開発センターの都鳥顕司シニアエキスパートは「体育館や郊外の商業施設など、設置できる建築物が飛躍的に増える」と、新技術の先進性を語る。

 ただ、ペロブスカイトは単一方向に結晶化が進むため、広い面積に均一に印刷するのが難しかった。これを可能にしたのが、東芝が有機ELの研究から開発していた「メニスカス塗布法」と呼ばれる技術。ペロブスカイトを結晶化させる成分を分けて印刷することで、結晶化の方向をコントロールでき、平面上でも結晶の均一性を高めることに成功した。

 現在は703平方センチメートル(24・15センチメートル×29・10センチメートル)まで印刷できる面積を拡大している。今後、実用化サイズとして想定される900平方センチメートルを目指すほか、発電効率を高め、12年まで1キロワット時の発電コストを7円まで引き下げたい考えだ。

 また、今年1月に公表したのは、亜酸化銅を用いた太陽電池の透明化技術だ。透明化により、従来の結晶シリコン太陽電池の上に重ねることで“2階建て”の太陽光パネルが可能になり、パネルの設置面積当たりの発電効率が高まる可能性が期待されている。

 過去にも別の素材を使った2階建て電池はあったが、従来の太陽電池の最大3000倍という高コストがネックだったという。

 亜酸化銅は地球上に豊富に存在する銅の酸化物で原材料費を抑えられるほか、結晶シリコン太陽電池とは異なる波長域の光を吸収して発電する特徴がある。結晶シリコンとの2階建てにできれば、太陽光を余すことなく活用できる。東芝は結晶化の際に透過率が最大となるポイントを突き止め、“1階部分”となる液晶シリコン太陽電池が約8割の出力を維持できる水準まで透明度を高めた。

 この技術を活用し、東芝は3年後までに低コストな2階建て太陽電池を完成させ、従来の結晶シリコン太陽電池が単独では技術上、届かないとされている30%台の発電効率を目指す。(産経新聞経済本部 佐久間修志)