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ANA新ハワイ便はビッグスケールの爽快感 綾瀬はるかさん起用も当たった

秋月涼佑
秋月涼佑

 人間とはつくづく贅沢な生き物だと思います。夢が叶ってしまうとそれが当たり前のようになってしまい、ありがたみが減ってしまう。経済学で言う、「限界効用の逓減」というやつですかね。

A380型機「FLYING HONU」と綾瀬はるかさん(ANAのHPより)
キャンペーンに貢献している綾瀬はるかさん(ANAのCM動画より)
「FLYING HONU」(ANAのHPより)
JALの特別輸送機(JALのHPより)

 例えば「飛行機に乗って家族でハワイ旅行」などは、かつて間違いなく人生で一度は叶えてみたい夢レベルの憧れだったはず。ありがたいことに年々飛行機の便数も増え、テクノロジーの進化にも助けられ、もちろん今でも贅沢なことに変わりはありませんが、頑張れば誰でも実現し得る旅行プランにまでなりました。

 そうなると不思議ですが、かつてほどのワクワク感を感じなくなってしまうのですね。独身貴族の中には「オアフなんて、東京都オアフ区だよ」などとうそぶく輩までいる始末。まして出張の多いビジネスマンにとっては飛行機を乗り降りすることすら辟易とする気分さえあります。

 確かに、国内では往復日帰りフライトを当たり前にこなすようになってしまった最近の風潮からすると、飛行機に乗るたびにドキドキなどしていられません。でも、そんな我々も仕事とはいえ、飛行機での出張に軽い緊張感と少々のワクワクを感じた頃もあったはずです。

 超巨大機のウミガメにほっこり!!

 やはり間違いなく飛行機に乗るという行為は、誰にとってもいつでも特別な体験であるはず。何せ空を飛ぶわけですから。そしてそんな飛行機に家族みんなで乗ってハワイに行く。いや、最高ではありませんか。

 そんなワクワク感を『ANA 成田=ホノルル線 エアバスA380型機/FLYING HONU就航キャンペーン』では、あらためて思い出させてくれたのではないでしょうか。

 まず、A380という総2階建ての超大型機が何と言ってもすごい。かつて日本の空を席捲していたジャンボジェット機(ボーイング747)が日本の空から退役してしばらくたちますが、あの2階建て客室をもつ機材ならではの贅沢感を覚えていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか? 今や日本のエアラインにおける大型機の主力はボーイング777です。もちろん機内は天井高があり圧迫感も少なく快適なのですが、ちょっと合理的過ぎて無味乾燥と感じてしまいます。

 業界通によれば、スカイマーク救済の過程で同社が発注済みだったA380をANA(全日本空輸)が引き取ったという事情があるそうです。逆に言えばそんな経緯でもなければ、我々がA380で日本からハワイに行くことなどなかったのかもしれません。大人数が一度に乗降することに伴うチェックインや出入国審査の混雑など多少の懸念はありますが、そんな小さなことは言わずに人類の夢、超大型機体験をぜひ一度はしてみたいという気にさせられます。個人的には、アッパーデッキ、ロワーデッキそれぞれに2か所ずつあるバーカウンターだけでもすでにアゲアゲです。

 外観も、その巨大な機体を生かしたウミガメの機体ペイントがゆったりしていて良いですね。極端に言えば、子供の絵のようなセンスですが、その計算し過ぎない感じがアロハで、見る人をリラックスさせてくれます。合理的でクールなプロのデザイナーお好みのデザインテイストは、とかく冷たい感じがしてしまうもの。ここはあえて、豪快で分かりやすい温もりを感じるテイストに振り切ったANAさんの英断に拍手です。何よりターゲットであるファミリーのインサイトにピッタリ。子供が空港ではしゃぐ姿が想像できますよね。

 機体ペイントは塗装費も高額ですし、なにしろ塗料の重量だけでも結構燃費に影響するそうです。しかも、機体が駐機場の構造などで見えたり見えなかったりするので、接触率的な計算だけでは効果が説明できない部分があります。だからこそ、そんな大きな費用をかけてでも、「ウミガメで勝負だ!」というANAさんの心意気を私としては歓迎させていただきたいと思います。

 綾瀬さんの自然体キャラクターがピッタリ!!

 そんなキャンペーンキャラクターに女優の綾瀬はるかさんもぴったり合っていますよね。CMではその親しみやすく自然体で大らかな魅力が爽快です。老若男女が利用する飛行機のこと、誰からも好かれるキャラクターとしてANAの他キャンペーンでも起用されている綾瀬さんですが、このハワイキャンペーンこそ、健康的で明るくやわらかな雰囲気がとてもマッチしています。

 「ANA HAWAii」のキャッチコピーと、HAWAIIの”I”をダブルエクスクラメーションマークにして、ワクワク感やスケール感を表現した「!!」をアイコニックに使った秀逸なグラフィック。「さあ。空を泳いであたらしいハワイへ。」などコピーライティングもピッタリです。

 さて、一方のハワイ航路と言えば歴史的王者のJAL(日本航空)。挑戦者のチャレンジを受け、黙ってはいられないことでしょう。まずは、JAL先得のCMなどでもお馴染みの人気アイドルグループ「嵐」を使った『ARASHI HAWAII JET』(ボーイング787-9に嵐のメンバーをあしらった新特別塗装機)で応戦ですが、まだまだこれから。さらに大型のパンチある企画を繰り出して欲しいものです。

 「飛行機で家族でハワイ!!」、夢をリテンション

 広告・マーケティング用語に「リテンション」という言葉があります。直訳的に「維持・保持」ということでしょうが、実務的には「ある商品やサービスについて、一度は認知しているターゲットの認知を再度呼び起こす」というようなニュアンスで使われます。要は、認知やイメージの掘り起こしですね。

 通常、広告やマーケティングの目的は、「アウェアネス(認知)」獲得に設定されることが多く、誰も知らない新商品の市場投入時のキャンペーン等が典型です。もちろん、今回のANAのキャンペーンも広い意味での新商品投入なのですが、もともとANAがハワイに飛行機を飛ばしているだろうことは誰でも知っているわけです。ただし、影が薄いと。それを、新機材A380の投入を機に、華々しい存在としてリテンション(再認知)してもらおうという状況です。

 コミュニケーションの技術論から言えば、既存のイメージがあまりにも強すぎる場合、それを払拭するのに苦労します。でも、良くも悪くもANAのハワイ便はそこまで強い印象がなかった、がゆえに、払拭すべきものはなく、ニュートラルなところに思いっきりビッグピクチャーを描けたように感じられます。

 予約も順調ということです。本原稿を書いている私自身が「ANA HAWAii」にリテンションされまくりですので、家族でフライト予約できる日が待ち遠しくて仕方ありません。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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