松下幸之助が妻を案じて興したと伝えられる「補聴器事業」 60年迎え性能飛躍

 
創業60年を記念して開催された「松下電器技術展」で骨導型補聴器を試す松下幸之助相談役(当時)=昭和53年9月、東京都港区

 パナソニックの補聴器事業が今月、60周年の節目を迎えた。専業メーカーが多い業界で、電機大手ならではの音響技術で強みを発揮。「街の電器店」を通じた販売やアフターサービスにも力を入れてきた。高齢社会で利用者の増加が想定される中、今後も製品とサービスの両面で、難聴に苦しむ人々をサポートしていく考えだ。(林佳代子)

■IoT対応モデルも

 パナソニックの補聴器の起源は昭和33年にさかのぼる。社史に残っておらず正確な経緯は不明だが、創業者で当時社長だった松下幸之助が、耳の聞こえが悪くなった妻、むめのさんを案じて開発を命じたのがきっかけとの言い伝えがある。

 翌34年には1号機となる「ポケット型補聴器」を発売。50年代後半には、耳の後ろの骨を振動させて音を伝える「骨導めがね型」、胸ポケットに差し込んで使う「ペン型」などを展開した。

 補聴器にデジタル化の波が押し寄せた平成以降は、パナソニックがオーディオ機器で培った音声信号処理のノウハウを投入。周囲の雑音を極力排除したり、難聴者が聞き取りにくい高周波数帯の音量を大きくしたりする技術で、製品の性能を飛躍的に向上させた。

 携帯電話の充電スタンドからヒントを得た業界初の充電式ポケット型補聴器「ONWAモデルJJ」は、平成21年の発売開始から累計約2万台を出荷。家電のIoT(モノのインターネット)対応が進む近年は、電話やテレビとワイヤレスでつながる製品を取りそろえている。

■出張サービスを提供

 一方、同社が製品開発以上に気を配ってきたのが、補聴器を多くの利用者に届けるための販路構築と、アフターサービスの充実だ。

 補聴器は法律で医療機器に分類され、性能面や安全面で国が定めた基準をクリアする必要がある。また、使う人の聴力に合わせて調整することから、販売の際には管理者の設置が義務づけられている。

 このため専門店やめがね店で販売されるのが一般的だが、パナソニックは全国にある地域密着型の電器店や介護ショップなど自前の販路が約8割を占める。さらに、スタッフ約160人が利用者の自宅や介護施設へ出張サービスを提供するサポート体制を整えている。

 子会社のパナソニック補聴器(東京)で15年にわたって販売や営業を担当してきた光野之(ゆき)雄(お)さんは、「補聴器は利用者一人一人に寄り添い、それぞれの生活に製品をカスタマイズさせることで初めて価値を持つ」と指摘する。医療機器のため目立った広報宣伝を展開することもなく、地道なサービスで満足度を高めていく営業戦略だ。

■潜在需要2千万人

 光野さん自身、「小型の補聴器はすぐに無くしてしまう」という利用者の声をもとに、紛失防止用のストラップの開発に携わった。昨年は、聞こえにくさを自覚していない人に難聴の早期発見を促すウェブ上のサービスを立ち上げた。

 現在、補聴器の所有者は国内で500万人程度だが、難聴を自覚していないケースなどを含めると潜在的な需要は2千万人に上るとみられている。光野さんは「不便を感じる人々により快適な暮らしを提供する大切な事業。これからも抵抗感なく使ってもらえる製品やサービスを開発していきたい」と話している。