地域金融、成果主義で歪み 行き詰まったビジネスモデル、どう描き直すか
地域金融機関の不祥事が相次いでいる。特に不正融資が問題となったスルガ銀行(静岡)や、「第2のスルガ銀」とも揶揄(やゆ)される信用金庫大手の西武信用金庫(東京)は、金融庁の森信親前長官が「優等生」としてお墨付きを与えた“チルドレン”。事業の核に据えた投資用不動産向け融資で過剰な成果主義がずさんな融資審査を野放しにした。ただ、厳しい経営環境下で自助努力を怠れば生き残りが難しいのも事実で、進退窮まった地方銀行を糾合する構想も浮上している。
前金融庁長官が絶賛
「成長経済だった日本は円熟・衰退へと向かう変革期。小が大に勝てる絶好のチャンスだ。攻めの経営に転換しなければならない」
2016年11月8日、西武信金の落合寛司理事長(当時)は東京・大手町で開かれたフォーラムでこう強調した。熱弁を振るったのは金融庁長官(同)の森氏が基調講演を行った直後だ。
絶頂期は2年半後に暗転した。今年5月24日、金融庁の業務改善命令を受け常務理事から理事長に昇格した高橋一朗氏は、「落合は本日付で今回の一連の内部統制の不備等に責任を感じ、自ら退任した」と絞り出すように説明した。過去の入居実績や投資家の預金残高を改竄(かいざん)した事例に加え、準暴力団とみられる人物の親族への融資も判明した。
当の落合氏は会見を欠席し、反社会的勢力との関係などについて自ら説明することはなかった。同様にシェアハウス投資向け融資をめぐり審査書類の改竄に手を染めたスルガ銀も、30年以上君臨した岡野光喜前会長が昨年9月の辞任以降、公の場に姿を現していない。
業界屈指の高収益を誇る西武信金やスルガ銀が「優等生」ともてはやされたのは、地域金融機関に創意工夫で新たなビジネスモデルを作り出すよう促した森氏がそのモデルケースと位置づけたからでもある。業界の寵児(ちょうじ)になった2人の経営者は、くしくも昨年7月の森氏退任後に相次いで凋落(ちょうらく)した。
融資偏重の裏側で
両金融機関に共通するのは、トップの旗振りのもとで融資額の伸長にひた走った前のめりな経営姿勢だ。
低金利の長期化で収益の根幹である利ざや(貸出金利と預金金利の差)が縮小し業界全体が収益力低下にあえぐ中、外国人や独身女性向けなど、他の金融機関が貸し倒れリスクを恐れて断るような案件も積極的に引き受け、業績を伸ばした。
しかし好業績には裏面があった。「数字ができないなら、ビルから飛び降りろ」「お前の家族を皆殺しにしてやる」-。スルガ銀の第三者委員会がまとめた報告書では、現場に苛烈なノルマが課され、パワハラが横行した様子が描写されている。
追い詰められた行員は物件を売りたい不動産業者と買いたい客を自らつなぎ、「業者とずぶずぶの関係」(関係者)になることで不正に手を染めていった。果てはデート商法詐欺まがいの融資まで発覚し、スルガ銀の有国三知男社長は「営業成績を重視し、感覚がマヒしていた」と釈明する。
貸し倒れ引当金増加
日本銀行によると地銀の約6割が今後10年で最終赤字に陥る見込みで、経営悪化は業界全体の課題だ。収益を確保しようと投資用不動産向け融資に注力した地域金融機関は少なくなく、第3、第4のスルガ銀が登場する可能性は十分ある。
東京商工リサーチの調べでは取引先の倒産などに備えた貸し倒れ引当金は国内111銀行の19年3月期の合計で10年ぶりに増加。景気減速が経営に追い打ちをかける。特にスルガ銀は不正融資した債権の質が悪化して引当金の積み増しを求められる恐れが強く、将来的に自己資本比率が国内基準の4%を下回るのではと懸念される。
自力では再建策が作れないこうした地銀の受け皿として、スルガ銀と業務提携した新生銀行が下位地銀を傘下に置く統合構想も一部でささやかれる。新生銀は10年に一時国有化された日本長期信用銀行が前身で、業績低迷から公的資金を返済できていない。金融庁が描く地銀再編の先兵にうってつけというわけだ。
ただ、消費者金融を収益の柱にする新生銀に弱体化した地銀をぶら下げただけでは、地域金融の抜本的な再生は難しそうだ。政府は今年の成長戦略で独占禁止法を緩和し地銀の統合を後押しする構えだが、行き詰まったビジネスモデルをどう描き直すかという大きな課題は依然残されている。(田辺裕晶)
関連記事