退任前のNAA夏目社長「7年間は長かった」 本紙単独インタビュー

 
産経新聞の単独インタビューに応じる成田国際空港会社(NAA)の夏目誠社長=成田空港内のNAA本社(城之内和義撮影)

 25日に退任する成田国際空港会社(NAA)の夏目誠社長(71)が産経新聞の単独インタビューに応じ、平成16年の同社民営化後、社長として最長となる7年の任期を振り返った。夏目氏は今後、相談役に就任する予定。新社長には前観光庁長官の田村明比古氏(63)の就任が同日開催の株主総会と取締役会で正式決定する。

 --まもなく社長任期を終える。現在の心境は

 7年間は長かった。全く経験がない航空、空港の世界に入ったが、22年10月に成田空港の年間発着枠30万回拡大への合意が、そして同じ時期に羽田空港では再国際化がスタートした。

 25年3月には空の自由化、オープンスカイが中国を除く主要国との間で適用されることになり、空港は「選ばれる時代」に大きく変化することになった。また、社長就任のほぼ1週間後に本邦LCC(格安航空会社)のジェットスター・ジャパンが就航するなど、激変、激動の世界に入った。そうした中で、日本の表玄関である成田空港の国際競争力強化、更なる機能強化の推進などに取り組まなければならず、かなりの重責だった。

 今後はきわめて適任の方にバトンタッチすることが決まり、やっと重い荷を下ろせると思うと、正直、少しほっとしている。

 --在任中の成田空港の変化を振り返ると

 大きな成果としては、開港以来、厳守されてきたカーフュー(午後11時から翌午前6時までの離着陸制限)について、やむを得ない場合に限り午前0時まで離着陸を認める「カーフューの弾力的運用」を25年3月に開始するため、地域のご理解をいただいたこと。また27年3月にはカーフューと並ぶ最大の課題であった空港入場時の検問廃止を実現し、オープンな空港にすることができた。

 さらには同年4月にLCCの定着、成長を支援するため、LCC専用の第3旅客ターミナルをオープンした。そして昨年3月の更なる機能強化(発着枠を50万回に拡大、3本目の滑走路新設など)への合意などが挙げられる。

 --リテール事業にも力を注いだ

 LCCなど航空機の小型化、軽量化が進む中で、重量による着陸料などの航空系収入に依存していては、経営の安定、健全化が損なわれかねないことから、就任以降、非航空収入であるリテール事業についても力を入れてきた。

 象徴的なこととしては、第1旅客ターミナル中央部の施設配置の見直し、改修を行うことにより、2400平方メートル、17店舗を新規開業した。

 私が就任した24年度は679億円だった空港内店舗売上高は、30年度に1432億円と2・1倍に増え、航空系と非航空系収入の割合も24年度の53対47から30年度は42対58へと大きく変わり、経営基盤の強化につながった。

 --鉄道から空の世界への転身となり、戸惑ったことや苦労した点は

 英会話が大の苦手だったので、英語の世界で苦労をした。航空の世界はアルファベット3文字で表記する業界用語が多く、例えば税関・出入国管理・検疫の略称をCIQ、国土交通省航空局のことはCABという。就任当初、CABをキャブと読んだら、「それはタクシーのことになるので、航空局に対して使ってはいけない」と注意されたこともあった。

 全く経験のない世界に来たことから、知らないことばかりだったので、とにかく資料などを読むなどして勉強をした。分からなければ教えてもらうことにした。「社長だから」とポストを気にせず、分からなければ教えてもらうという謙虚な姿勢で臨むことが大事だと思った。

 前の会社でも「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と社員に言ってきた。知らないこと、分からないことを隠したり、知ったかぶりをすることが一番いけないと思っている。私も何も知らなかったので、そういう姿勢で臨んできた。とにかく学ぶことの重要性は、ことあるごとに当社の社員にも訴えている。

 --更なる機能強化が進められる中、今後の成田空港の成長に求められるものは

 航空、空港の世界は厳しい競争市場で、変化が大きく、そして激しい。こうした中、時代や環境の変化に迅速、柔軟に対応していくことで、アジアの主要空港に負けないよう競争力を強化していくことが最も大事だ。

 空港競争力の源泉の一つが航空ネットワークにあることから、現在、海外119都市に就航するネットワークをさらに拡大し、利便性や使い勝手を高めていくこと。そして成田空港の強みである、成長するアジアと北米の結節点としての機能をさらに高めるため、乗り継ぎ機能の強化に注力していくこと。さらに、まだまだ伸びしろが大きいLCCの成長を支援し、アジア、中国とのネットワークを充実していくこと。これらが成田空港が成長するに当たって大事なことだ。

 --社長退任後は、相談役に就く。空港会社や地域との今後の関わり方は

 これまで成田空港の経営課題の解決に取り組んできた中で、特に更なる機能強化に当たっては周辺自治体や関係者、地域住民からさまざまな心配の声や要望をいただいた。

 大事なことは国と県、周辺自治体で構成する4者協議会の確認事項として整理されているが、確認事項の意味や議論の経過などをまとめた当事者、責任者として必要なときにはきちんと対応していきたい。

(聞き手 城之内和義)

 【プロフィル】

 なつめ・まこと 昭和22年8月生まれ。46年、東大法学部卒。日本国有鉄道に入り、国鉄分割民営化に伴い62年、JR東日本総務課長に就任。平成15年、同社副社長。17年、東日本キヨスク(現JR東日本リテールネット)社長を経て、24年にNAA社長に就任。