あえて手書き、出版社のこだわり いろは出版、「コト消費」を重視

 
お守り型のメッセージカード「おまもる」などを手掛ける「いろは出版」の木村行伸社長(右)と企画した小原郁美さん=京都市左京区(山本考志撮影)

 スマートフォンやタブレット端末の無料通信アプリが普及し、いつでも簡単にメッセージをやりとりできるようになった昨今、あえて手書きのぬくもりにこだわった雑貨を手掛けるのが「いろは出版」だ。商品を購入することで得られる体験や、人とのつながりといった「コト消費」を重視し、独創的なアイデアで生み出す雑貨の数々が、若い女性を中心に人気を集めている。

 同社のルーツは、詩人の「きむ」としても活動する木村行伸社長が京都芸術短期大(現京都造形芸術大、京都市左京区)在学中に始めたポストカードづくりにある。木村社長が自作の詩と写真でデザインしたカードを京都市内の路上で販売したところ人気に火が付き、2003年に同社を設立。これまでに雑貨や書籍など約6500点を世に送り出した。売り上げの8割ほどを占める雑貨は、東急ハンズなど全国の大手雑貨店に並ぶ。

 人気が出ているのがお守り型メッセージカード「おまもる」(税抜き320円)。「合格祈願」や「恋愛成就」など8種類あり、応援や励ましのメッセージを手書きしたカードを紙製の袋に入れ、友人や家族らにプレゼントする。本物のお守りのようにひもでカバンなどにくくりつけることができる。

 昨年12月の発売からこれまでに約3万6000個を販売しており、オンラインショップでは学校の教師が生徒への合格祈願のため、数十個単位でまとめ買いをするケースも。企画した同社の小原郁美さんは、高校受験で学習塾講師からのメッセージカードに励まされた思い出からアイデアを思いついたといい、「この商品をいろんなタイミングで誰かに思いを伝えるきっかけにしてほしい」と話す。

 雑貨の企画・開発は小原さんら20~30代の女性社員4人で担当しており、市場の動向にとらわれず、日常から生まれる自由な発想を重視。夫婦や恋人同士で、相手の好きなところを100個書き込んで贈るメッセージカード「好きなところ100」(税抜き900円)などのヒット商品を生んだ。

 結婚式でのウェルカムボード用などを想定した似顔絵製作販売事業も手掛ける。月平均約500件の注文を受け、作家13人が制作を担当。「芸術大や美術大を卒業した作家たちが、創作活動を続けながら生計を立てられれば」という木村社長の思いから、全員を正社員として雇用している。

 木村社長は「“人”が好きな社員が多く、誰かに喜んでもらいたいという思いが日々のモチベーションになっている。今までにないものを世に送り出していきたい」と意気込んでいる。(山本考志)

【会社概要】いろは出版

 ▽本社=京都市左京区岩倉南平岡町74

 ▽創業=2003年10月

 ▽資本金=1000万円

 ▽従業員=133人

 ▽事業内容=書籍の発行、雑貨の企画・販売、似顔絵受注製作