【スポーツbiz】バスケットボールに追い風、今こそ底辺拡大のチャンス

 
記者会見後、ユニホームを掲げる八村塁選手(中央) =21日、ワシントン(AP)

 今、日本と米国で最も注目されている米ゴンザガ大の八村塁選手。米プロバスケットボールNBAのドラフト会議で日本人選手として初めて1巡目、全体9位でワシントン・ウィザーズから指名された。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 ドラフト会議の模様、本拠地キャピタルワン・アリーナでの記者会見は国内でも長時間、テレビやインターネット動画で放映された。英語と日本語を使い分け、ユーモアを交えた21歳とは思えない落ち着いた話しぶりに思わず引き込まれた。

 「(1巡目指名が)どれだけ大きいことかもこの2日間で実感できましたし、バスケとかスポーツとかも今すごく盛り上がっているので、そういう中で僕がアスリートの顔としてなっていけたらいいと思っています」

 期待示す破格の待遇

 NBAでは新人の指名順に応じて年俸の基準額が設定されており、八村選手の年俸は1年目から4億5000万円を超えるとみられる。それだけではない。指名と同時に、バスケットボールの神様マイケル・ジョーダンの名を冠したナイキ社の「ジョーダン・ブランド」と契約した。むろん、日本人初である。

 破格の待遇は期待の大きさの表れ。八村選手はきっと望みに応えてくれるに違いない。

 田伏勇太選手(現Bリーグ栃木)が日本人初のNBA入りを果たしたときも、現メンフィス・グリズリーズの渡辺雄太選手が続いたときもこれほどバスケットボールが盛り上がることはなかった。特筆すべき1巡目指名にNCAA(全米大学体育協会)での活躍が影響したか。

 今、バスケットボールには追い風が吹いている。

 一つは2016年9月に誕生した男子プロリーグ、Bリーグの定着である。発足3年で売り上げを3倍に伸ばし、観客動員は50%増を記録した。ソフトバンクとのスポンサー契約、DAZNとの放送権契約により経営基盤が安定、既に認知度ではバレーボールのVリーグを抜いてプロ野球、Jリーグに続く3番目の存在に浮上している。

 スタンドには若い観客が目立ち、特に女性客の多さに目を見張る。見せることを意識した経営戦略の勝利といえよう。

 とりわけ実力トップの「千葉ジェッツふなばし」は売上高、観客動員、SNSフォロワーでもリーグナンバーワン。大黒柱の富樫勇樹選手とBリーグ初の年俸1億円契約を結ぶなど、時代を切り取る戦略が注目を浴びる。

 もとより新人選手と4億5000万円超の契約を結ぶNBAのチームとは比較にならない。ただ発足3年、よくぞ存在感を引き上げたと敬意を表したい。

 底辺拡大のチャンス

 1年後の東京オリンピックに男子日本代表が出場する。1976年モントリオール大会以来44年ぶりのオリンピックの舞台だ。八村選手や渡辺選手、富樫選手に加えて、八村選手の富山市立奥田中学の先輩でNBA挑戦を公言するアルバルク東京の馬場雄大選手らのへの注目度は高い。彼らの活躍が今後の日本のバスケットボール界の行方を左右するといっていい。

 世界的にみるとバスケットボールの競技人口はサッカー約2億6000万人、テニス約1億人をはるかにしのぐ約4億5000万人とされる。一方、日本の人気部活を調べるとサッカー、軟式野球、バスケットボールの順。そして試合来場者はプロ野球約550万人、Jリーグ約970万人に対しBリーグは約250万人と劣る。

 経営状況が右肩上がりのBリーグだが、経営難のクラブは少なくない。追い風の吹く今こそ、八村人気にも乗って底辺を拡大したい。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田端政治』『オリンピック略史』など多数。