【鉄道業界インサイド】トイレ設置、着席機会増加も… JR中央線グリーン車導入に潜むリスク

 

 5月末からJR中央線快速でトイレを設置した車両の運行が始まった。東京駅から高尾駅までは中央特快を利用しても約1時間、大月駅まで乗り入れる一部の列車では乗車時間は最長1時間40分を超えるため、トイレ設置を歓迎する利用者も多いだろう。ただし、トイレが設置された列車でもまだ使用することはできない。使用開始は車両基地に汚物処理施設が設置される今年度末以降で、また58編成全ての編成にトイレの設置が完了するのは2023年度の予定だから、当面はトイレのある列車とない列車が混在することになるので注意が必要だ。

 JR東日本は中央線の東京寄り4両目・5両目に2階建てグリーン車を連結して12両編成化し、2023年度から東京駅~大月駅・青梅駅間でグリーン車サービスを開始する計画を進めており、車両へのトイレ設置はこの一環として進められているものだ。

中央快速線グリーン車イメージ(東日本旅客鉄道株式会社)

 なぜグリーン車とトイレが関係するかというと、公共施設のバリアフリー化促進を目的としたバリアフリー新法が「便所を設ける場合は、そのうち一列車ごとに一以上は、車いす使用者の円滑な利用に適した構造のものでなければならない」と定めているからだ。

 グリーン車に設置されるトイレは名目上グリーン車の利用者専用の施設であり、またスペースの面からも車いす対応とすることができない。基準を満たすためには、その他の車両に車いす対応の大型トイレを整備する必要があるというわけ。最終的に12両編成の4号車グリーン車と6号車普通車にトイレが設置される計画だ。

 中央線へのグリーン車導入計画は、当初2015年の発表時は2020年度のサービス開始を予定していたが、後に2023年度開始に延期された経緯がある。

 2004年にグリーン車を導入した宇都宮線・高崎線(湘南新宿ライン)、2007年に導入した常磐線では、従来からトイレを備えた車両が運行しており、また既存の10両編成の普通車2両を置き換える形でグリーン車を連結したため、駅や線路の大規模な改修は必要なかった。

 ところが中央線はトイレ増設に加えて、現在よりも2両増やして12両編成化するために、全44駅でホーム延伸や待避線の延長工事を行う必要がある。中には神田川沿いの狭隘な場所に設置された御茶ノ水駅のように、大規模改良工事の完成後に既設の階段を撤去して新宿側にホームを延伸する大掛かりな工事を必要とするケースもあり、事前の想定より準備に時間を要することが判明したことからスケジュールが見直されたというわけだ。

グリーン車運行区間および列車(東日本旅客鉄道株式会社)

 車両についても、当初は従来と同じ幅約80センチの片開きドアを備えた車両が投入される計画だったが、グリーン車としては初めて幅130センチの両開きドアの採用が決まるなど、中央線向けに混雑・遅延対策を強化した特別車両が用意されることになった。

グリーン車連結位置とトイレの設置場所(東日本旅客鉄道株式会社)

 グリーン車の導入によって中央線の着席サービスは劇的に拡大することになる。現在朝ラッシュ時間帯は特急「おうめ」「はちおうじ」合計3本の通勤向け特急が運行されているが、全ての列車にグリーン車が設置されることで、時間帯、座席数の両面で着席機会が格段に増加する。

三鷹駅付近を走行するJR中央線(写真・SankeiBiz編集部)

 中央快速線の朝ラッシュピーク時間帯の平均混雑率は184%(2017年度)、輸送力4万4400人(定員1480人の列車が1時間に30本運行)に対して8万1560人が乗車していることを意味する。2階建てグリーン車の定員は2両で約180名だから、その分を普通車から差し引けば混雑率は約170%に低下する計算だ。遅延と混雑は相互に影響する関係にあるので、計算上は混雑率が低下すれば遅延の発生も減るはずである。

 ただ新規にグリーン車を導入した路線では、ホームのグリーン車停車位置で待っていた乗客があわてて前後の普通車に移動するため、特定の車両に混雑が集中する現象もみられる。ダイヤに余裕がない中央線では、乗降に時間がかかって停車時間が長引くボトルネック駅がひとつでもできてしまうと、遅延と混雑が悪化することにもなりかねないという懸念がある。グリーン車と普通車、両方の利用者の満足度向上につなげられるかは、利用者への周知と案内要員の配置など、JR東日本の事前準備にかかっていると言えるだろう。

【プロフィール】枝久保達也(えだくぼ・たつや)

鉄道ライター
都市交通史研究家

1982年11月、上越新幹線より数日早く鉄道のまち大宮市に生まれるが、幼少期は鉄道には全く興味を示さなかった。2006年に東京メトロに入社し、広報・マーケティング・コミュニケーション業務を担当。2017年に独立して、現在は鉄道ライター・都市交通史研究家として活動している。専門は地下鉄を中心とした東京の都市交通の成り立ち。

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