単独インタビュー

レクサス澤代表「最近は欧州勢のベンチマークに」「ミニバンで市場開拓」

SankeiBiz編集部

 日本発の高級車ブランド「レクサス」のトップを務める澤良宏プレジデントにSankeiBizが単独インタビューした。就任から3年目を迎え、ドイツ勢が勢力をふるうプレミアムカー市場において「ベンチマークされ始めたと感じている。やっていることが響き始めた」という。クルマ作りにとどまらないブランディングの手応えや、初のミニバン「LM」を投入する狙いなど今後の展望を聞いてみた。(聞き手 大竹信生/SankeiBiz編集部)

Q.いきなりだが、やはりメルセデス・ベンツ、BMW、アウディのいわゆる「ジャーマン3」がライバルなのか?

 「意識はしているが、彼らとは違うことをやりたい。性能面で伍していけるものは必要だが、単にスペックじゃない世界観のようなもの、例えばデザインや乗ったときの感覚、サービス面も含めてレクサス独自の戦略や土俵を作りたい。ラグジュアリーブランドとして1世紀を超える彼らの歴史には勝てない。だったら彼らとは違うやり方で『レクサス面白いね』と言ってもらえる世界観を出すことが大事だ」

Q.ブランディングの手応えは?

 「ここ数年は『レクサス、元気いいね』と言ってもらうことが増えている。(レクサスが2017年に発表した)ボートなどクルマ作りにとどまらない活動を活発にやっており、他社からベンチマークされ始めたと感じている。欧州勢の戦略に対して我々がやっていることが逆にチェックされているし、彼らの動きの中で、レクサスがやっていることが見えることもある。以前はそういうことがなく、あくまで『我が道を行く』という感じだったが、レクサスが彼らと違うことをやるようになり、いまでは互いに刺激し合えるようになったのではないか。レクサスがやっていることが響き始めていると、ここ1、2年で感じるようになった」

Q.クルマの枠を超えた「ライフスタイルブランド」としての今後の展開は? レクサスの家が欲しい人や、もしかするとベビーカーだって買いたい人がいるかもしれない

 「一筋縄ではいかないが、それが『ライフスタイルブランド』になりたいと言っているレクサスの究極の方向性だと思っている。最近ではパナソニック、ミサワホーム、トヨタホームが一緒になった。今後はお客様に『つながる家』を提供することで、これまでとは違う形の生活やサービスにクルマがつながる、ということが出てくるだろう。それはトヨタグループとして自前の世界の話だが、ほかに(クルマと食事を結び付けたイベントの)『DINING OUT』などもやっている。外食産業のユニークな人たちと手を握ることで、互いのブランドを高め合うことができると思っている。また、レクサスがアウトドアブランドと一緒にグランピングとSUVのタイアップイベントをやれば、アウトドアが好きな富裕層のお客様ともつながっていける。我々だけでやれることは自分たちでやり、できないことは各カテゴリーのトップの人たちとアライアンスを考える、というやり方で、レクサスブランドを軸に独特のライフスタイルを発信していきたい」

Q.中国で発表した高級ミニバン「LM」は、レクサスのどのような方向性を示しているのか?

 「ショーファー(運転手付き)ユースでミニバンが最も伸びているのがアジアだ。特に中国、タイ、インドネシアはものすごい勢いだ。LMはテレビや冷蔵庫を備えるなど、飛行機のファーストクラスのようなキャビンを提供している。従来のものでは満足しない成功者が中国を中心にアジアで増えており、(大型ミニバンの)アルファードやヴェルファイアに興味を示して買い始めている。アジアの価値観の中でアルファードやヴェルファイアのようなクルマが確実に響いており、超富裕層に『これがいい』と言ってもらえる新たな市場ができたので投入を決めた。グローバルな展開は、ボリュームを含めてアジアでの動きを見ながら決めていきたい」

Q.国内での展開は? “アル・ヴェル”とは異なるクルマだと思うが

 「日本ではアルファードとヴェルファイアでそれなりの台数が出ているので、拙速に考えず、まずアジアを見ながら可能性を探りたい。特別なものを望むお客様がアジアに多くいる中で、専用シートを収めることのできるワンボックスの広さは非常に特別感のあるもの。まずは世界のお客様に受け入れてもらえるのかやってみたい。もしそれが当たれば『次も考えます』ということ」

Q.そういう意味で高級ミニバンはジャーマン3も未開拓なのでは? メルセデスのVクラスも欧州では“ラグジュアリー・カー”という位置づけではないはずだが

 「未開拓だ。欧州のミニバンは商用ベースが多い中で、アルファードとヴェルファイアが唯一、ラグジュアリーと言えるものを作り始めた。しかもアジアが高級ミニバンの市場を作りつつある。これは大変面白い現象だ。アジアが新たな高級カテゴリーを創出するのは、初めてではないだろうか。レクサスが掲げる『唯一無二』を、ジャーマン3とは異なる土俵で広げていく一つのテストケースになる」

Q.プレミアムブランドであるレクサスだが、一般的なビジネスマンでも手が届くような価格帯の車種が増えている

 「(エントリーモデルの小型SUV)『UX』を見ていただくとあの価格だが(※390万円~)、トヨタ車共通の新プラットフォーム『TNGA』をベースに補強したり専用部品を与えることで、レクサスとしての性能や質感、期待値を提供している。割安なベースを使っても、コストや手間暇を掛けないと『これって高いトヨタじゃん』と言われかねず、自らブランドに傷をつけることになる。ベース車に対してどれだけの付加価値を担保することで『LEXUS』のバッジをつけることができるのか、ということを先行開発の段階からやっている。その中で(クラスによって)単純に価格が下がっていくということではない。レクサスが恵まれているのは、トヨタブランドというマスを持っていることだ。それらを使っていかにレクサスの付加価値を付けられるか、ということだ」

 「レクサスのSUVには(上から)LX、RX、NX、UXとあるが、本当はヒエラルキーは作りたくない。お客様はそれぞれのライフスタイルによって『街乗りならコンパクト』『旅なら少し大きいクルマに乗りたい』と思うだろう。『小さいから安い』ではなく、『小さくて上質で楽しいクルマ』を、望まれる方に提供したい。お客様はクルマのサイズによって価格が動くものだという感覚をお持ちなので、その範疇でライフスタイルに合った“彩り”を持たせたいというのが私の想いだ」

Q.トップ在任中に成し遂げたいことは?

 「冒頭でも触れたが、日本発のプレミアムブランドとして『あれはあれで面白いブランドだよね』と主要マーケットで認識してもらうこと。今まで高級車といえばドイツ車だったが、レクサスの世界観に賛同してくれる人を増やしていきたい。最も大変なのは今のクルマ文化を作ってきた欧州だ。新参者の価値観をその社会で認めてもらうのは非常に難しいことだが、日本食や浮世絵、ファッションや建築など、日本文化を愛でる人は欧州に多い。日本人と美意識が合うのだろう。『自分たちには作れないけれど、これいいね』と素直に言ってくれる。数は少なくても、ドイツやイギリスには作れない良いものをプロダクトやサービスに入れていきたい。例えばディーラーでのおもてなしやデザイン、クルマの乗り味など、日本人が持っている独特の美意識でいろんなものが出来上がっているということだ」

 「どのメーカーも同じテーマで大・中・小(のクルマ)を展開しているが、レクサスはどの車種もデザインを変えている。こんなラグジュアリーブランドは世界中を見てもないのではないか。これはとんでもない努力を伴う。デザインは個々に違っても、裏にある美意識や考え方がしっかりと見えるから、群で見れば一つの世界となる。これも彼らとは違ったやり方だ。一本筋を通すことで、『こういう価値観のもとに作っているんだ』と分かってもらえるようになる。それがライフスタイルブランドだと思う。私がトップにいる間に多くの種をまき、ブランドとして大きく成長してほしい」

澤良宏(さわ・よしひろ) Lexus International President
京都工芸繊維大学意匠工芸学科卒業。1980年入社。カローラなどの小型車外形デザインを担当。米国駐在、内外装デザインを経て、異色のデザイナー出身チーフエンジニアとして、アイゴの開発を担当し、2017年4月にLexus International Presidentに就任