【クルマ三昧】ペダル踏み間違い事故…免許取得時に「左足ブレーキ」に矯正してはどうか
高齢者のブレーキペダルの踏み間違いに関する話題が絶えることがない。朝目覚めて朝刊をひらけば、日本のどこかで起こった痛ましい交通事故が報道されている。歩道を歩く幼児が被害にあう。コンビニに突進したクルマが人を殺める。痛ましいニュースをみることすら嫌になる毎日だ。高齢者の免許返納、衝突安全機能、一刻も早い安全議論で世間は騒がしい。
それなのに、左足ブレーキの議論があまりされていないのはどうしたものか。それには何かの理由があるのだろうか…と勘ぐってしまうのは、僕自身が「左足ブレーキ肯定派」だからだろうか。
左足ブレーキを併用
僕はレースでも左足ブレーキを多用している。日常でも左足ブレーキを併用する。ブレーキペダルを踏む足を、右や左に時と場合によって使い分けてることの便利さを享受している。
日常のブレーキングは右足でこなせば不都合はない。だけど、たとえば駐車場などの小さな段差を乗り越える場合に、左足ブレーキは役立つことがある。小さな段差を乗り越えたすぐ先に障害物があるような場面では、確実に左足ブレーキが有効だ。
段差を乗り越えるためには比較的強めにアクセルペダルを踏み込まなければならない。だが、乗り越えた瞬間には力があり余るから、急ブレーキを踏む必要がある。その点左足ブレーキならば、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替えの時間的なロスがなく、瞬間的コントロールができる。もはやこれを使わずには、怖くて駐車できない体になっているほどだ。
住宅街をソロソロと低速で走るときでさえも、左足ブレーキは有効だ。左右の小道から飛び出しの危険がある。そんな環境では、素早いブレーキングに備えて、あらかじめ左足をブレーキペダルに添えてて身構えると安全度が高まる。
バイク操作にヒント?
そんな日常を過ごしていて思うのは、左足ブレーキを徹底してしまえば、少なくともブレーキペダルの踏み間違えは減るのではないかという期待だ。バイクの場合、加速をしたけれは右手でグリップを捻る。止まりたければ右手でレバーを引く。もしくは右足でブレーキバーを踏む。捻ると握ると踏むと、操作方法がはっきりと分かれているバイクで、スロットルとブレーキの操作の間違いをしたという事故を耳にすることはない。そこにもヒントがありそうな気がするのだ。
心配なのは、両足併用することで瞬間的にミス操作しないだろうかという不安である。両刀派の僕はこれまで一度たりともペダル操作を間違ったことはないが、それがすべての免許取得者に当てはまるとは限らない。
ならば、運転免許取得時から、「アクセル操作は右足、ブレーキ操作は左足」と矯正してしまってばどうだろうか。もはや2010年からAT免許取得者はMT免許取得者を数の上では上回っている。ATモデルの販売比率はすでに98%に達しているというから、ブレーキングは左足でするものと決めてしまえば、操作ミスの障害はクリアできるのではないかと思う。
アクセル、ブレーキ、クラッチがついた、いわゆる3ベダルも決してなくならない。左足ブレーキで育ったドライバーがMT車を運転する際に慣れぬ右足ブレーキに挑むのは困難かもしれない。というのならば、AT限定免許を選択したドライバー限定で左足ブレーキを推奨するのもひとつの安全策だと思う。
ちなみに、交通法規では、「ブレーキ操作は右足を推奨する」という文言がある。強制ではないが、「できれば右足で…」というわけだ。さて、はたして…。
【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。
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