【試乗スケッチ】ダウンサイジングターボの欠点を補うボルボの秘密兵器「パワーパルス」
重量級アーバンSUVとダウンサイジングターボエンジンの相性は悪い。
環境性能のためという大義名分によって排気量を下げ、それによって失った出力の不足分をターボチャージャーで補うという考え方が浸透した。これによって、重量モデルのお約束だったV型8気筒やV型12気筒といったマルチシリンダー大排気量エンジンを淘汰に追い込んでいる。とはいうものの、走り味がマッチしているとは到底思えないのである。
レスポンス遅れという欠点
たしかにターボチャージャーは排気量を超えて、より強力な出力を得ることができる。エンジンから吐き出される排気の圧力を利用し、風車のようにタービンを回転させる。その回転力を利用し、エンジン内部にガソリンを送り込むという機構上、自然吸気よりも強制的に充填する分だけ、より強いパワーを発揮するのだ。
だが、ターボチャージャーはレスポンス遅れという欠点を抱えている。エンジンに火が入り、排気圧がターボチャージャーに導かれてから初めて本格的なパワーを発揮するという1サイクル巡る時間がレスポンスの遅れを招くのだ。
重量級SUV、質量が大きいぶんだけ、より強力なトルクが必要である。だが市街地では頻繁に信号からのストップ・アンド・ゴーが繰り返され、渋滞にも巻き込まれる。アクセルペダルを踏んだり離したりが少なくない。レスポンス遅れが気になって仕方がないのである。
そんな欠点を知っているボルボは、あらたに投入したボルボXC90D5に興味深い技術を採用した。その名も「パワーパルス」。
原理的には優しい。エンジンの排気圧を利用し、あらかじめタンクに圧縮エアを貯めておく。その圧縮エアを、ドライバーがアクセルペダルを踏み込んだ瞬間をにタイミング良く、ターボチャージャーに吹き付けるのである。それによって、排気圧が高まるのを待つこともなく、レスポンス遅れが改善される。
あくまでレスポンス対策だから、最初の「ひとふき」を終えたら任務完了。その後の長い加速は、ターボチャージャーならではの力強いトルクにすべてを任せるという連携だ。
D5に搭載されるディーゼルエンジンは、直列4気筒である。排気量は驚くなかれ、2リッターでしかない。これで約2.5トンにも達するボディを走らせるには頼りなく映る。それをターボチャージャーが補い、ターボチャージャーの欠点をパワーパルスが補っているというわけだ。
「パワーパルス」作動条件はこうだ。
アクセル開度36%
アクセルの踏み込みの速さが100%/sec
ギアは1速か2速時のみ
エンジン回転は2000rpm以下
つまり、低速走行中の比較的強い加速のときのみに「パワーパルス」が作動する。信号が青に変わり慌てて発進する場合や、トロトロ流れるような緩い渋滞時に突然前が開けたといった場面で頼りになる。
これによって、アクセルペダルを踏み込んでから1秒後に、出力が2倍になるイメージである。アクセルを踏み込んでいるのにノロノロし、イライラの後にドカンとくるような、荒々しい特性ではなくなった。発進加速が上質になったと思える。
XC90は3列シートゆえに、約2.5トンというボディはけして軽い数字ではない。だというのに、力不足を感じることはなかった。これならば、ダウンサイジングターボも悪くはないと思えた。
【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。
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