中小企業へのエール

仏不動産制度「ビアジェ」 高齢化社会を豊かに生き抜く方法

 仕事の関係でフランスに縁があり年に数回行っている。パリでよく見かけるのは、80歳を超えているとおぼしき女性が、ハイヒールに真っ赤なジャケットを着てお化粧をして、時には愛犬を連れ街中を優雅に散歩している様子だ。いくら年金制度が充実している国とはいえ、物価の高いパリでなぜ豊かな生活が維持できているのか不思議だ。ある時、理由の一つをフランス人の友人に教えてもらった。それは、VIAGER(ビアジェ)という特殊な不動産売買制度で、その歴史は古代ローマ時代から続いている。(旭川大学客員教授・増山壽一)

 この制度は、老齢した夫婦または死別した高齢者が、住居を売りに出す際、住み慣れた家に終生住み続けるという希望をかなえる契約で、引き渡し時期を自らの死亡時または志望の時としている。

 売却価格は当然安くなる。しかし所有権は既に買い主にあるので、家賃を支払うことなく維持費一切は買い主負担となる。売却価格の目安は、国が発表する男女の平均寿命を基に平均生存期間を計算する。さらに売り主の希望により、売却価格を安く設定し、その差額を毎月年金のように受け取れる契約にすることもできる。

 日本でも「リバースモーゲージ」という似た制度があるが、これは売り主が自宅を担保にお金を借り、死亡時に担保となる不動産による一括返済を前提にしている融資制度である。

 ビアジェは買い主と売り主のどちらが有利かは、何歳まで生きるかで決まるギャンブル的な要素がある。しかし、これを不謹慎とみる風潮はない。

 実際、自宅を担保にお金を借り、いつまで生きるかわからない不安をもち続け、節約しながら生きていくのと、スパッと売却し全て経費は買い主に負担をさせ、一時金と毎月一定額を受け取り優雅に過ごす制度とどちらが社会にプラスだろうか。

 パリの不動産のように古いアパートでも価値が下がらない、むしろ価値が上がる。そして、通常よりも低額で取得できる可能性があり将来の投資用に購入したい者がいるという前提の上に成り立ってはいるが、日本の不動産も今後は同じ方向に向かっていくだろう。

 受け継ぐ子供がいない、子供に相続させる必要のない不動産を持つ老齢家族が、今後の日本でも増えていくことを考えると、このフランスの制度をぜひ日本にも導入したいものだ。不動産市場は活性化し、高齢者も豊かになるのではないか。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。環境省特別参与。56歳。著書に「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)など。